研究課題/領域番号 |
25820446
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
斉藤 拓巳 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門・先端基礎研究センター, 任期付研究員 (90436543)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 天然有機物 / 地下水 / 放射性廃棄物処分 / 腐植物質 |
研究概要 |
深部地下環境中の天然有機物(NOM)は,その特異的な起源から,表層環境由来のNOMとは大きく異なる.現在,放射性廃棄物処分における天然バリア中の核種移行に対する有機物影響に関する研究では,表層由来のNOMをモデル物質として使用することが一般的であるが,その妥当性は検証されるべきである.本研究では,堆積岩系の地下水から抽出されたNOMと表層由来のNOMを比較することで,我が国の深地層NOMの特性を位置づけ,その物理化学的性質と起源の関係を探ることを目的としている. 平成25年度には,日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターの-250 m坑道にて採取された地下水より,国際腐植物質学会に準拠した方法(DAX8法)にて抽出された2種類のNOM(フミン酸,フルボ酸)の物理・化学的特性評価,および,電位差滴定による詳細な帯電挙動の評価を行った. 元素組成および13C-NMRの結果から,幌延フミン酸,フルボ酸が,表層由来のNOMと比べて,脂肪鎖に富んだ構造を有しており,また,特に,硫黄の含有量が大きいことが明らかになった.また,流動場分画法によるサイズ分布の評価から,幌延NOMが比較的小さなサイズの分子から成ることが分かった.さらに,多様な特性情報に対して,クラスター分析を行うことで,幌延NOMが表層由来のNOMが異なり,独立した一つのグループを形成していることを示した. 異なる塩濃度における電位差滴定より得られた帯電挙動の比較においても,幌延NOMと表層由来のNOMの相違は明確であった.特に,前者では,低pH域でpHに対する電荷量変化が大きく,一方,高pH域の電荷量の変化はあまり大きくないことが分かった.この結果は,幌延NOMでは,脂肪鎖骨格上に化学的に均質なカルボキシ基サイトが存在し,それらが主要な官能基となっていることを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度では,堆積岩系深部地下水より抽出された天然有機物(NOM)の物理・化学的特性評価,および,電位差滴定による詳細な帯電挙動の評価を行い,得られた結果を表層環境由来のNOMのものと比較することを目的とした.上記の「研究実績の概要」で説明した通り,元素組成や炭素の化学形評価,サイズ分野,官能基量などの多様な特性情報を取得し,クラスター分析により,表層環境由来のNOMと比べた深部地下水NOMの特異性を明らかにした.さらに,電位差滴定による帯電挙動の比較から,プロトンの解離に寄与する官能基の特性の点でも,両者が異なることを示した.これらの結果は,年度当初の目的を満たすものであり,次年度の研究結果と合わせて,深部地下水の腐植物質の構造や錯生成能と起源の関係の解明に資するものである.
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今後の研究の推進方策 |
本年度(平成25年度)の結果を踏まえ,次年度(平成26年度)では,深部地下水のNOMに対する金属イオンの錯生成挙動を評価し,反応のモデル化を実施する. 金属イオンとしては,銅,カドミウム,そして,放射性廃棄物処分で問題となる6価ウランや3価アクチノイド元素(ex. キュリウムやアメリシウム)と類似した化学的性質を有するユーロピウムを用いる.銅,カドミウムに対しては,イオン選択性電極を用いた電位差滴定により,ウランやユーロピウムに対しては,透析法あるいは時間分解型レーザ蛍光法にて,錯生成の評価を実施する.得られた結果に対して,NOMへのイオンの結合を表すためのモデルであるNICA-Donnanモデルによるフィッティングを行い結合パラメータを取得し,表層由来のNOMに対する報告値と比較し,表層由来のNOMに関する文献値の比較から,両者の金属イオンとの錯生成の相違を議論する.さらに,ウランなどの酸化還元をに敏感なイオンの環境動態に大きな影響を及ぼす可能性のあるNOMの酸化還元能も合わせて評価する. これらの結果を,平成25年度に取得した物理化学特性情報や帯電挙動と合わせて,総合的に議論し,因子分析などの統計手法を用いることで,深部地下水中のNOMの特徴をまとめるとともに,その起源に迫る.
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