深部地下環境中の天然有機物(NOM)は,その特異的な起源から,表層環境由来のNOMとは大きく異なる.現在,放射性廃棄物処分における核種移行に対する有機物影響に関する研究では,表層のNOMをモデル物質として使用することが一般的であるが,その妥当性は検証されるべきである.本研究では,堆積岩系の深地層から得られたNOMの物理化学的特性,金属イオンとの錯生成挙動を評価し,得られた結果を表層由来のNOMと比較することで,両者の相違を明らかにすることを目的とした. 実験には,深度-250 mの坑道にて,直接,堆積岩系の地下水よりDAX-8法で回収・精製したフミン酸,フルボ酸画分のNOMを使用した.深部地下NOMの物理化学的特性として,元素組成,13C NMR,流動場分画法によるサイズ分布評価を行った.また,H+,および,Cu2+イオンの結合量を電位差滴定法にて評価した. 深部地下NOMは,表層のNOMと比較して,脂肪鎖に富んだ,サイズの小さな有機分子からなることが分かった.また,そのH+解離性官能基量が表層のNOMと同程度であることも分かった.深部地下NOMの電荷/pH曲線の傾きは,低pH域では大きく,高pH域では小さくなり,負電荷が,主に,脂肪鎖上に分布した化学的に均質なカルボキシル基からのH+解離によることが示された.また,Cu2+の結合等温線の傾きは 低pH域で大きく,また,その結合量は,表層のNOMの比べて,小さかった.これは,深部地下NOMの脂肪鎖上に分布したカルボキシル基の空間的な配置により,Cu2+との間に安定な多座配位の結合を形成できず,主に,Cu2+が単座でカルボキシルに結合していることを示唆する.このように,深部地下のNOMへの金属イオンの結合挙動は,その構造,物理化学的性質の特異性を反映して,表層のNOMとは異なることが,本研究を通して,初めて明らかになった.
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