研究課題
粒子・重イオン輸送計算コードPHITSは、照射損傷量DPA値を計算できる機能を実装しているが、高エネルギー領域(20MeV-1GeV)の陽子照射について、実験データは存在しない。そこで本研究では、極低温の環境下ではじき出し断面積と関連する、陽子照射欠陥に伴う電気抵抗増加を測定するための装置を開発することを目的とする。本年度は、サンプル作成手法とビームフルエンス測定手法の改良を実施した。サンプルは、純度99.999%の銅線(直径250μm, 長さ152mm)を、2枚の高熱伝導度及び絶縁性を持つ窒化アルミ基板で挟み込む構造とし、1,000℃で1時間かけて焼鈍した。その後、冷却用アンカー(無酸素銅)とGM冷凍機を介した熱伝導により、サンプルを冷却した。試料の抵抗は、四端子法を用いて±10mA出力の電流源とナノボルトメータの組み合わせにより計測した。ビーム電流量は、ビームダンプからの信号とアルミニウム箔を用いた放射化法により求めた。京大炉FFAG施設において開発した照射装置を用いて、125MeV陽子を極低温下12Kで照射した。その結果、照射前の銅線の電気抵抗29.41μΩに対し、照射欠陥に伴う1.53μΩの微小な電気抵抗の増加を精度よく測定できた。また、PHITSコードを用いて欠陥生成効率を考慮した銅のはじき出し断面積の計算値と、電気抵抗率変化の測定結果から導出した値との比較を行った。その結果、PHITSの計算値は、エネルギー100MeV以上の陽子照射による銅のはじき出し断面積を定量的に再現することがわかった。本成果をまとめた論文を原子力材料の専門誌Journal of Nuclear Materialsへ投稿した結果、掲載された。
2: おおむね順調に進展している
高エネルギー陽子に対する極低温照射試験の手法を確立でき、かつ成果を論文発表できたため。
平成27年度は、開発した極低温照射装置を用いてアルミニウムの照射欠陥に伴う電気抵抗測定を実施する。さらに、広いエネルギー範囲(20-1000MeV)に対する測定値を系統的に測定するため、京大炉FFAG施設の他に、阪大RCNP等他の施設での測定の検討を開始する。また、平成27年5月に米国ミシガン州立大学で開催されるWorkshop on Radiation Effects in Superconducting Magnet Materials 2015 (RESMM'15)において成果を発表する。
加速器運転のスケジュールにより、アルミニウムに対する照射試験を行わなかったため。
国際ワークショップにおける発表のための出張費とアルミニウムに対する極低温照射試験に使用する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Nuclear Materials
巻: 458 ページ: 369-375
10.1016/j.jnucmat.2014.12.125