本研究では、視覚性連合記憶に関する大脳皮質層構造の機能分化を調べることで、その情報処理過程を解明することを目的としている。そのために、本研究の全研究期間を通して神経活動データの収集および解析・MRIデータの収集および解析・組織切片の作成およびその解析を行った。これらの結果については既にその予備的な発見の一部を国際学会で発表しており、現在は全体をまとめた論文を執筆中である。 最終年度前年までにおいては、視覚性連合記憶課題を遂行中の2個体から神経活動データの記録を行い、また構造MRI画像を合わせて使用することでその記録部位を同定していた。最終年度においてはこれら神経活動記録を行った計2個体を対象に、組織学切片の3次元的再構成および神経活動記録部位の決定を行った。具体的にはまず、大脳皮質層構造を描出するためにニッスル染色した組織切片に対し、嗅周皮質周辺の高解像度顕微鏡画像(1.06 μm/pixel)を取得した。次いで、別に撮像しておいた解像度75μmの灌流固定脳組織のMRI3次元画像をテンプレートとして、前後の連続性を確認しながら組織切片画像を3次元に再構成した。この嗅周皮質3次元組織切片モデルに対し、MRI画像上で位置を同定した神経細胞活動記録部位をアフィン変換行列により対応させ、それぞれがどの層構造に存在するのかを個別に決定した。これら手法による神経細胞活動記録部位同定の精度を電気的傷害標識により評価したところ、標準偏差は±80μm以内であった。神経細胞活動を大脳皮質層構造との関連に注目して解析したところ、記憶に関係した遅延活動が皮質の深部側により強く関連しているということ、さらに深部の中でも大脳皮質の層ごとに異なる処理をしているということが分かった。現在、上記の成果をまとめて学術雑誌への投稿原稿を執筆中であり、近日中に発表できる見込みである。
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