研究実績の概要 |
生まれたばかりの動物の脳には成熟動物の脳と比較して、過剰にシナプスが存在する。生後の発達の過程において,このうち必要なシナプスは強化・維持され,不要なシナプスは除去される。この過程は“シナプス刈り込み”とよばれており,生後の発達期において、生育環境に適応するように神経回路を最適化する仕組みと考えられている。これまでの研究により、シナプス刈り込みにはシナプス後部の神経細胞の神経活動や分子が必要なことが証明されている。しかし、シナプス後部の神経細胞の神経活動や分子がどのようにしてシナプス前部に働きかけ、シナプスを強化・維持するあるいは除去するのかは不明であった。 このようなシグナル分子を同定するために、本研究では、シナプス刈り込みのメカニズム解明に先導的役割を果たしている小脳の登上線維ープルキンエ細胞シナプスに着目し、申請者が開発したレンチウィルスノックダウンベクターと延髄ー小脳の共培養標本を用い、登上線維ープルキンエ細胞シナプスの刈り込みに関わるシグナル分子を探索した。その結果、神経活動依存性分子Arcとセマフォリンファミリーの2つの分子、Sema3AとSema7Aが候補にあがった。そこで生後発達期のマウス小脳でArc, Sema3A, Sema7Aの発現をノックダウンすることで、さらに解析を進めた。その結果、Arcはプルキンエ細胞の神経活動に依存して発現が上昇し、生後13日目以降のシナプス除去を促進し、Sema3Aは生後8日目から登上線維シナプスを強化・維持し、Sema7Aは生後15日目から弱い登上線維のシナプス除去を促進していることが明らとなった。さらに、Sema3AとSema7Aはシナプス後部の細胞であるプルキンエ細胞からシナプス前部である登上線維に直接シグナルを伝え、シナプスを強化、除去している逆行性シグナル分子であることが見出された。
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