研究課題/領域番号 |
25830005
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
井上 蘭 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 助教 (70401817)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | グルココルチコイド受容体 / 扁桃体 / 恐怖記憶 / ストレス |
研究概要 |
ストレスホルモンのグルココルチコイドは、恐怖記憶の制御だけでなく、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の病態にも関わっている。扁桃体にはグルココルチコイド受容体(GR)が豊富に発現し、グルココルチコイド作用の重要なターゲット部位である。申請者らは、扁桃体外側核(LA)選択的GRノックアウト(LAGRKO)マウスを作製し、LAGRKOマウスにおいて、扁桃体依存性の恐怖記憶の形成に異常があることを見出した。昨年度では、LAGRKOマウスで認められた記憶障害に関わる分子・細胞メカニズムを明らかにするために、記憶形成に重要な転写因子のひとつであるcAMP response element binding protein (CREB)の活性化レベルを、恐怖条件付け30分ならびに90分後の脳スライスを用いて検討した。その結果、LAGRKOマウスではLA部位のCREBの活性化がコントロールマウスに比べ有意に低下していることが明らかとなった。また、LAのGR欠損が視床下部-下垂体‐副腎(HPA)軸の機能に与える影響を調べるため、通常状態、恐怖条件付け30分後ならびに90分後の血漿中コルチコステロンの量を測定したところ、いずれの条件においても、コントロールとLAGRKOマウスの間で統計学的有意さが認められなかった。これらの結果から、LAのGRを介するCREBの活性化が、恐怖記憶の形成に重要な役割を果たすことが示唆された。適当なストレスは記憶を促進する作用があるが、慢性的あるいは強いストレスは逆に記憶形成を抑制することが示唆されている。LAのGR欠損がストレス負荷後の記憶形成にどのような影響を与えるかを調べるため、拘束ストレスの1時間後に恐怖条件付けを行った。その結果、ストレスによる恐怖記憶の抑制の程度が、LAGRKOマウスで低かったことが認められた。これらの結果から、LAのGRは通常状態だけでなく、ストレス負荷時の記憶の形成にも重要な役割を果たすことが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した研究の一部が予定とおり進行し、恐怖記憶制御におけるLA特異的なGR機能の一端を明らかにすることができた。現在、アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて、GRをLAGRKOマウスのLAに強制発現させ、LAGRKOマウスで認められた表現型のレスキュー実験を優先的に行っている。 当初計画した電気生理学的ならびに形態学的解析については少し遅れているが、計画以上に進んでいる部分もあるため、全体としては概ね順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究により、LAのGRは通常状態だけでなくストレス負荷時の記憶形成においても重要な役割を果たすことを明らかにすることができた。本年度は、AAVによるレスキュー実験を引き続き行い、成果が出る時点で論文発表する予定である。 LAGRの細胞レベルでの機能を明らかにするため、当初計画した電気生理学的ならびに形態学的解析を進める。また、LAGRの機能とPTSDの病態との関連性を明らかにするため、PTSDのモデル作製実験を行い、その感受性を評価し、GRをターゲットとするPTSDの新規治療戦略の可能性を検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画した電気生理学実験は、東京大学医科学研究所に申請者が出向き、実施する予定でしたが、実験計画の進行が少し遅れたため、試薬購入費ならび旅費の支出が少なくなった。 次年度使用額につきましては、その大部分を電気生理学解析に割り当て使用する予定である。
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