1.これまで社会行動中の2個体から記録される超音波はどちらが発声したものか区別することが困難であった。そこで各個体の甲状披裂筋の活動から記録された超音波を弁別する方法を開発した。単一個体から記録した超音波発声と甲状披裂筋の筋電図の相関を調べた結果、50 kHz帯の超音波発声のうち、音節中に周波数が大きく変化する発声(FM call)が起こる際には、ほぼ必ず甲状披裂筋の高振幅バーストを伴うことが明らかになった。以上の検討に基づき、社会行動中の2匹のラットから記録されたFM callを各ラットの甲状披裂筋の高振幅活動の有無によって弁別した。FM callを自身および相手が発声した前後のラットの行動は異なっており、今回開発した弁別法が有用であることが確認され、また自由な社会行動におけるラットの超音波発声のパターンの一端が明らかになった。
2.扁桃体外側核及び境界領域のニューロン活動を、行動の3次元映像、超音波、および甲状披裂筋の活動と同時記録した。記録した20個のニューロンのうち、FM callに応答したものは3個だった。このうち1個は記録個体自身の発声に興奮性に応答し、1個は他個体の発声に興奮性に応答し、もう1個は自身の発声には抑制性、他個体の発声には興奮性に応答した。さらに3次元映像から社会行動中の2匹のラットの位置関係および行動を解析しニューロン活動との相関を調べた結果、2匹間の距離やその変化(接近・離反)、あるいはこの2つの組み合わせに応じて活動が変化するニューロンが合計11個見つかった。以上の社会的刺激や行動に応答する社会行動関連ニューロンは合計12個(記録したニューロンの60%)であった。以上の結果から、自由な社会行動において、適切な社会行動の遂行に重要な情報(自身と相手の行動や自身と相手との物理的関係に関する情報)が扁桃体で処理されていることが明らかになった。
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