研究課題/領域番号 |
25830008
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
萩原 明 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (70402849)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アクティブゾーン構成蛋白質 / Cre-loxPシステム / 脳領域特異的ELKS欠損マウス / シナプス微細構造 |
研究概要 |
<内容> 脳の機能を担う神経回路が正常に作用するためには、情報伝達の場であるシナプスにおいて円滑な情報の受け渡しが必須である。本研究では、このシナプス伝達の分子メカニズムを明らかにし、またその機能阻害によって生じる脳機能への影響を解析する。特にシナプス前終末において伝達物質が放出される場(アクティブゾーン)の構成蛋白質であるCAST/ELKSファミリーに着目する。 1, ELKSの条件付き遺伝子欠損マウスを用い、生後0-1日目の大脳皮質から神経細胞の初代培養系を確立した。さらに、アデノ随伴ウィルスによってCreを発現させることでELKSを時期特異的に欠損させ、シナプスの機能解析を進めている。 2, Cre発現マウスとの交配により、前脳または小脳でELKSを欠損するマウスの作製に成功した。現在、CAST/ELKSの両遺伝子を欠損したマウスの作製および解析を進めている。 <意義> アクティブゾーンは神経伝達物質の放出を調整する特殊な構造であり、その構成蛋白質は分子・構造基盤としての役割が考えられる。本研究では構成蛋白質の一つであるCAST/ELKSファミリーを欠損させ、シナプスおよび関連する脳機能の解析を行う。このように脳機能と分子基盤との関係を明らかにすることで、今後様々な精神神経疾患等の原因解明や治療への応用が期待される。 <重要性> 近年神経系の研究は脳機能を支える神経回路網の解析へと大きく変化してきた。しかしながら、脳の機能は神経細胞間の情報伝達によって成り立っており、その基盤となるシナプスの分子メカニズムは回路網の正常な作用にとって重要な要素の一つである。したがって、本研究のように脳機能と関連するシナプスの分子メカニズムは、脳の基礎研究から疾患治療への応用へと幅広い方向性を指し示すカギとなるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1, 初代培養神経細胞系ではCASTおよびELKSの両遺伝子を欠損させた神経回路網の確立に成功した。培養初期にELKSを欠損させた神経細胞では、その形態やシナプス形成等に顕著な異常は認められなかった。現在ELKSの欠損をシナプス形成期と維持期とに分類し、各時期におけるELKSの機能を形態学的に解析すると同時にシナプス伝達の機能解析も行っている。 2, ELKSの条件付き遺伝子欠損マウスは、前脳および小脳で成功し、その表現型解析を形態学的、また行動学的に行った。その結果、ELKSのみの欠損では形態学的に顕著な異常はみられず、表現型にも特徴的な影響はみられなかった。そこで、ファミリー蛋白質であるCAST/ELKS両遺伝子欠損マウスの作製および解析に取りかかった。そのうち前脳において両遺伝子が欠損したマウスは生後0-1日目で衰弱死することが分かり、その原因を様々な角度から探っている。小脳の両遺伝子欠損マウスは順調に生育することから、現在は運動機能に関連する行動実験を中心に解析を進めている。 CASTやELKSの各遺伝子欠損マウスではそれぞれの蛋白質がお互いに補完しあうことでみられなかった表現系が、両遺伝子の欠損型で顕著に表れるようになった。今後これら表現系とシナプス伝達機能との関係を明らかにし、その成果を社会に発信する準備を進めて行く。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に引き続き、平成26年度も培養神経系での機能解析と遺伝子欠損マウスを用いた解析を並行して進めて行く。特に、両遺伝子欠損マウスではCASTやELKSの各遺伝子欠損マウスでは見られなかった表現型が顕れており、シナプス伝達の欠陥と脳機能との関係を明らかにする手がかりとして形態学的、生理学的な解析を進めて行く。 一方、前脳特異的な欠損マウスは生後1日目で死亡してしまうことから、海馬や大脳皮質の主な機能である記憶とシナプス前終末からの放出との関係を明らかにすることは難しいことがわかった。今後、記憶とシナプス伝達との関係を明らかにするため、海馬特異的にCreを発現しているマウスと交配させ新たなELKS欠損マウスの作製にも着手していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費やその他の支出に端数が生じたため。 平成26年度の物品費として使用する。
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