研究実績の概要 |
霊長類の2つの眼は左右に離れて位置するため、それぞれの眼に投影される外界の像の間にはずれ(両眼視差)が生じる。両眼視差は外界の奥行きを反映することから、奥行き知覚を形成するための重要な要素となる。両眼視差情報は初期視覚野で抽出された後、大脳皮質の多くの視覚領野でさらに処理される。両眼視差が中・高次視覚野でどのように処理されるかを明らかにするためには、神経細胞の応答特性を解析するだけでなく、応答特性を形成する神経回路の解析が必要である。本研究では、2光子顕微鏡による生体内イメージング法を用いて神経細胞の応答特性と解剖学的な構造を同時に明らかにすることによって、中・高次領野における両眼視差情報の処理を明らかにすることを目的とした。 前年度は、2光子イメージング法を用いて初期視覚野の神経細胞から、視覚刺激に対する応答を計測・解析する方法を確立し、方位選択性地図の解析を行った(Ikezoe et al., 2013)。本年度は、中次視覚野であるV4野への計測・解析手法の拡張とげっ歯類を用いた解剖学的手法の確立を目指した。 サルに視覚刺激として自然動画を提示中の神経細胞群の活動を、2光子カルシウムイメージング法を用いて計測した。個々の細胞の応答を記述する符号化モデルを作成した。符号化モデルは新規の刺激に対する細胞の応答を一定の精度で予測した。符号化モデルを用いて細胞の方位選択性を解析したところ、V1野と同様に、似た最適方位を持つ細胞が集合して存在した。解剖学的手法についてはげっ歯類の大脳皮質を用いて、ある特定の領野へ投射する細胞からカルシウムイメージングを用いて感覚応答を計測する手法を確立した。 以上の通り、中次視覚野での計測手法の確立と解剖学的手法の確立を行うことができた。両眼視差刺激に対する応答を調べるシステムはセットアップ済みであり、今後、両眼視差情報の処理メカニズムの解析を進める。
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