本研究は、ゼブラフィッシュ稚魚の逃避行動をモデルに用いて、感覚刺激の位置に応じて、個体の移動方向(ロコモーションの方向性)を変化させる神経メカニズムについて研究を行った。 H26年度において見いだしていた、触覚刺激の皮膚上の位置に応じて神経活動を変化させる後脳のMediolateral細胞(以下、MDL細胞)の機能解析を行なった。MDL細胞は、カルシウムインディケーターGCaMPを広範に発現させ、頭部への触覚刺激によってGCaMPの蛍光強度が増加する細胞として同定されるため、MDL細胞の大部分を、再現的にラベルする簡便な遺伝学的方法がなかった。そこで、MDL細胞の機能を阻害する為に、まずMDL細胞を二光子顕微鏡を用いて触覚刺激に応答してGCaMPの蛍光強度が増加する細胞領域として同定し、直後に二光子レーザー照射によって、アブレーションを行なう、という実験法の検討を行った。この実験手順によって、MDL細胞をアブレーションした稚魚の逃避行動のアッセイが可能であることが分かった。この手法を用いて、MDL細胞を阻害すると稚魚の逃避行動が起こる確率が著しく低下するという予備的な結果を得た。このアブレーション実験は、稚魚をアガロースに包埋し、MLD細胞のアブレーションを行なって、逃避行動のアッセイを完了するまでに、一時間以上を要し、MLD細胞の阻害効果を正確に評価する為には、今後のアッセイ法の洗練と、他の独立なMLD細胞の機能評価法が必要であると考えられた。 後脳の少数のグルタミン酸作動性ニューロンをラベルするGAL4系統を作製し、後脳のGal4陽性細胞にGAL4/UAS法を用いてGCaMPを発現させ、触覚刺激に対する応答性を解析した。その結果、MDL細胞と同様な応答性を示す細胞が含まれた。この細胞は、脊髄に軸索を投射しているため、少なくともMLD細胞の一部は脊髄投射ニューロンであることが分かった。
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