大脳基底核は運動関連皮質と強い神経連絡を持ち、また大脳基底核の機能異常によりパーキンソン病などの運動障害疾患が引き起こされることから、運動制御において大きな役割を担っていることが知られている。大脳基底核内には皮質からの運動情報を伝達する3つの経路があることが解剖学的に知られており、それぞれの経路が運動制御において異なる役割を持つことが推測されるが、その詳細は明らかになっていない。昨年度は、イムノトキシンとインターロイキン受容体遺伝子をもつ逆行性輸送されるウイスル・ベクターを利用して、3つの経路のうちの1つである「ハイパー直接路」を選択的に破壊することに成功した。そこで本年度は選択的破壊した後に大脳基底核の出力部位である淡蒼球内節(GPi)から細胞活動を記録した。皮質刺激に対して、GPiニューロンは興奮-抑制-興奮反応という三相性の細胞応答を示すが、「ハイパー直接路」の選択的破壊後には、早い興奮性反応だけが有意に減弱し、抑制反応と遅い興奮反応に変化は見られなかった。したがって、GPiでの早い興奮反応は「ハイパー直接路」を経由して引き起こされることが示された。また、GPiは抑制性出力を視床に送ることで、結果的に運動皮質の活動を抑えることから、三相性反応のうち抑制反応は視床の活動を脱抑制することで、運動皮質の活動を亢進し、結果として必要な運動皮質の活動を高めると考えられる。そしてGPiでの早い興奮反応は逆に運動開始前の不必要な運動皮質の活動を抑える働きがあると考えられる。本研究の成果に行動学的なデータを加えることで、この仮説に対する更なる検証を行って行きたい。
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