性ホルモンがヒトの気質、性格、感情に影響を及ぼしうることは、種々の精神病質に性差があることから示唆されてきた。しかしながらヒトのパーソナリティと脳内性ホルモン系について直接に研究された前例は少なくその詳細は明らかになっていない。我々は、女性ホルモンを男性ホルモンに変換する酵素aromataseの挙動を生体脳内で観察するため、新規のPETプローブを開発した。4種類の類縁体を合成し、またそれぞれをPET核種である11Cで標識し、動物実験を行った。その中で霊長類において脳内aromataseに高い特異性と結合能をもつ2種類の化合物、11C-cetrozoleおよび11C-TMD-322の安全性試験を行い、ヒトで臨床試験を行った。サルでは11C-cetrozoleより11C-TMD-322の方が結合能が高かったが、ヒトでは11C-cetrozoleの結合能の方が高かった。これは、サルでは11C-TMD-322の代謝速度が速かったためだと考えられる。11C-Cetrozoleを用いて健常ヒト(男性11名、女性10名)で臨床PET試験を行い、脳内aromataseの分布および濃度と個人の気質・性格との相関性を解析した。その結果、女性では扁桃体と視床下部視索上核が攻撃性、新規探索、自己超越に関連していたが、男性では主に皮質部分が損害回避、固執、自己超越に関連していた。また、女性、男性ともに協調性は視床のaromataseレベルと関連していた。以上の結果、脳内aromataseレベルと気質・性格の相関は、男女差がある気質および脳領域と、男女に共通する気質および脳領域があることが示された。
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