研究課題/領域番号 |
25830037
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
片平 立矢 同志社大学, 高等研究教育機構, 助教 (80511782)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経発生 / 精神疾患 |
研究概要 |
幼児期の虐待は成人になってからのうつ・不安障害・統合失調症等の原因の一つと考えられている。申請者はマウスの虐待モデルである隔離ストレスを仔マウスに与え、脳におけるShhの発現と形態形成に与える影響を解析することを目的としている。24時間母獣から隔離する隔離ストレスは、成獣になってから統合失調症様行動をとることが知られている。私たちは24時間隔離を行うと海馬でShhの発現低下が起こることを予備的結果として得ていた。ヒトの統合失調症では海馬介在神経のGABA関連遺伝子の発現低下が報告されている。隔離ストレスが脳内にどのような変化を引き起こし統合失調症様行動を誘発するか分かっていない事が多く、動物モデルでの24時間隔離直後のGABA関連遺伝子群への影響についての報告が無かった。Shhと統合失調症発症の関係を解析する手がかりとして、まずGABA合成酵であるGAD67 の発現解析を行った。海馬の介在神経が発生的に2つの領域 (前脳腹側の MGE と CGE) から由来する事を利用して、Nkx2.1-cre;beta-geo EGFP マウスで遺伝学的に MGE をラベルすることで MGE 由来と CGE 由来の介在神経を区別出来るようにした。隔離ストレスを Nkx2.1-cre;beta-geo EGFP 仔マウスに与えた結果、隔離直後の仔マウス海馬介在神経で GAD67 の発現が細胞種特異的・領域特異的に抑制されることと、領域特異的な細胞死数の増加が観察されるが、介在神経は影響を受けないことを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24時間隔離直後のGAD67の発現変化が海馬の領域特異的に起こっていること、さらにトランスジェニックマウスを用いて介在神経の由来を区別したことによって、領域ごとの介在神経由来特異的にGAD67の発現変化が起こっていることを同定したことは新しい発見であり、この隔離ストレスの作用機序の解明を進展させるものである。隔離ストレスが作用する神経伝達物質の同定を平成25年度の目的の一つとしていたので、この目的は達成できた。またH25年度中に隔離ストレスによって細胞死はMGE由来の介在神経とGAD67発現細胞では増加していないことを明らかにした。24時間隔離を行うと海馬で細胞死が増加するが、Shh発現細胞では細胞死が増加していないことを予備的結果として得ていた。隔離ストレスによって影響を受ける領域と細胞種を同定した事で、隔離ストレスに対する Shh の機能解析を行うための準備を整えることが出来た。一方、皮質への隔離ストレスの影響の解析は、24時間隔離後に隔離していない仔マウスと比較して体部位局在形成が遅れている予備的結果を得ているが詳細な解析まで至っていない。海馬のGAD67の発現が、隔離ストレスという環境の変化によって領域特異的・細胞種特異的に誘導されることを示したが、海馬での解析方法は皮質での解析に応用出来るものであり準備を整えることが出来たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は隔離ストレスをかけた仔マウスの海馬および皮質における Shh の機能解析を中心に行う。Shh と GAD67 の発現パターンを明らかにすることで 隔離ストレスに対する介在神経の細胞死への耐性機構を明らかにする。さらに皮質体部位局在形成への隔離ストレスの影響が Shh および GAD67 の発現変化を介しているのか明らかにする。Shh の体部位局在形成への影響は、in utero electroporation を用いて Shh の皮質への強制発現および Cre を Shhflox/flox マウス皮質へ導入することによる遺伝子破壊を行うことで解析していく。 またShh の強制発現、機能破壊をしたマウスに隔離ストレスを与えることで、Shh の体部位局在形成や GAD67 の発現への影響を解析する。Shhシグナル分子やGABAの亢進剤・阻害剤を仔マウスに与える事で解析を行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、隔離ストレスの発達過程の海馬への影響を解析するために主に抗体を購入して組織学的な解析を行なっていた。その結果、隔離ストレスで影響がある細胞種・領域が確定できた。In utero electroporation によって海馬および皮質の遺伝子的操作を計画していたが、標的となる細胞種・領域を確定する事を優先したために次年度使用額が生じた。また神経伝達物質の阻害剤等を用いて隔離ストレスが作用する神経伝達物質を同定する計画であったが、GABAが関わっている事が分かったので、阻害剤等を使用せずに次年度使用額が生じた。 平成26年度は隔離ストレスが作用する細胞種・領域が同定できたので、in utero electroporationを用いて解析を行なう。皮質・海馬に特定の時期に遺伝子を発現させる為のベクターを購入し構築する予定である。また効率的な遺伝子導入を行なう為の電極を購入する。Shhシグナル分子やGABAの亢進剤・阻害剤を仔マウスに与える事で隔離ストレスが実際にどのように作用しているか解析を行なう予定である。また研究結果を学会、および論文として発表する為に研究費を使用する。
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