本研究の目的は(1)パーキンソン病の発症のきっかけに関与するリンパ組織の検証、(2)ドパミン神経細胞死の増悪にリンパ組織が及ぼす役割について検証を行うことであり、脳の疾患に免疫系が積極的に関与することが示唆されることで、パーキンソン病の病態解明並びに新規治療方法の開発につながる。ヒト剖検症例とパーキンソン病モデルマウスの解剖標本を用いて、以下の成果を得た。 (1)パーキンソン病症例を用いて中脳、延髄、腸管のリン酸化α-synuclein免疫染色を行った結果、消化管末梢神経叢から迷走神経背側核へと続く一連の蓄積が認められた。対照例では黒質ドパミン神経細胞にリン酸化α-synucleinの蓄積は認められないが腸管末梢神経叢での蓄積が認められたことから、発症前段階の症例である可能性が考えられた。パーキンソン病発症のきっかけが消化管である可能性を示唆する所見を得られたが、腸管のリンパ組織でリン酸化α-synucleinの明確な蓄積は認められなかった。 (2)リン酸化α-synuclein陽性細胞はパーキンソン病症例で増加傾向にあり、陽性細胞は主にマクロファージであった。対照例にも認められたことから、発症以前よりリン酸化α-synucleinに対する免疫反応が生じている可能性が示唆された。一方、パーキンソン病モデルマウス脳におけるリン酸化α-synucleinの蓄積は神経細胞内に凝集体として認められず、末梢リンパ組織のリン酸化α-synuclein陽性細胞の存在は野生型マウスとの差が認められなかった。
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