本研究は、日本国内で初めて同定された2名の家族性筋萎縮性側索硬化症2型(ALS2)患者からiPS細胞株を樹立し、そのiPS細胞株から運動ニューロンを分化誘導することによって、ALS2疾患モデル細胞を作出すること、さらに、その細胞表現型を非患者由来運動ニューロンの細胞表現型と比較することによって、ALS2疾患モデル細胞特異的にみられる機能異常を同定することを目的とする。 本研究では、まずALS2患者2名及び健常者2名の血液サンプルより白血球を単離しiPS細胞株の樹立を試みた。しかし、ALS2患者の白血球からは細胞株が十分に得られなかったため、患者繊維芽細胞より、再度iPS細胞株の樹立を試みた。その結果、患者由来繊維芽細胞から十分数のiPS細胞株の樹立に成功した。それらの細胞株の幹細胞マーカーの発現を確認後、神経幹細胞及び運動ニューロンへと分化誘導した。それらの細胞を用いて、ウエスタンブロッティングによってオートファゴソームマーカーであるLC3の発現量を解析した結果、ALS2患者由来の神経幹細胞において、LC3の存在量が減少していた。一方で、総LC3量のうちの2型LC3の占める割合をウエスタンブロットのシグナル強度より算出した結果、ALS2患者iPS細胞株由来神経幹細胞では増加する傾向がみられた。従って、ALS2患者由来神経幹細胞において、オートファゴソームを介したタンパク質分解経路に変調をきたしている可能性が示された。また、運動ニューロン分化誘導後播種した細胞をSMI-32抗体を用いて染色した結果、ALS2患者由来運動ニューロンにおいてSMI-32のシグナル強度の低下が認められた。現在、これらの背景にある分子メカニズムを明らかにするために、次世代シークエンシングによってALS2患者由来神経幹細胞及び運動ニューロン由来のmRNA発現解析を行い、健常者由来のそれらと比較することによって、ALS2疾患発症に関わるシグナル伝達経路の同定を試みている。
|