本年度は、アルツハイマー病発症に重要な役割を果たすアミロイドβ(Aβ)の産生を抑制出来るクルクミン誘導体の同定を目指し、スクリーニング及び評価を進めた。昨年度にクルクミンよりも効果的にAβ産生を抑制する誘導体として同定された誘導体Xについて、ヒト野生型APPを定常的に発現するCHO細胞株やヒト神経細胞株SH-SY5Y細胞を用いて評価を行った。CHO細胞を用いて誘導体Xで72時間処理を行ったところ、Aβ40およびAβ42の産生をそれぞれ約60%まで阻害した。またAβは前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein、APP)からセクレターゼによる切断により産生されるが、誘導体Xで72時間処理した細胞では全長のAPPや他の切断産物であるsecreted APPが減少していることが確認された。神経細胞を用いた解析では、誘導体Xで24時間処理した細胞においてAβ産生の減少と共に、小胞体に存在するAPP量の増加が確認された。一方でセクレターゼ自身の酵素活性は抑制されていなかった。免疫沈降法を用いた解析から、小胞体シャペロンであるGRP78とAPPの結合の増加が確認された。以上の結果から、クルクミン誘導体Xは、小胞体で翻訳された新生APPがセクレターゼの存在するゴルジ体やエンドソームへの細胞内輸送を抑制したことにより、間接的にAβ産生を減少させたのではないかと考えられた。セクレターゼはAPP以外にも多くの基質をもつことからセクレターゼの直接的な活性阻害は副作用が起きてしまうが、誘導体Xはセクレターゼ活性に影響を与えずAβ産生を抑制出来ることから、AD治療薬として有効となることが期待される。
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