研究課題/領域番号 |
25830045
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
鈴木 康予 独立行政法人国立長寿医療研究センター, バイオリソース研究室, 流動研究員 (60416188)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経変性疾患 / 多系統萎縮症 / α-synuclein / シスタチンC |
研究概要 |
多系統萎縮症(MSA)は難治性の神経変性疾患で,オリゴデンドロサイトと神経細胞にα-synucleinが蓄積して発症する.本研究では,MSAの発症機序を解析することにより,診断法・治療法の開発を目指している.これまでの研究で,オリゴデンドロサイト特異的にヒトα-synucleinを強制発現させたMSAモデルマウスにおいて,変性したオリゴデンドロサイトの放出する液性因子が神経細胞内のα-synucleinの発現誘導することがわかっていた.本年度の研究では,オリゴデンドロサイトから放出されるいくつかの液性因子のうち,神経細胞のα-synuclein発現を誘導し,神経細胞の変性の原因となるα-synucleinの不溶化を引き起こすシグナル分子がシスタチンCであることを明らかにした.MSAモデルマウスの経時的な解析では,3ヶ月齢マウス脳で外来性ヒトα-synucleinの発現が確認され,6ヵ月齢ではオリゴデンドロサイトにGCI様inclusionが認められるとともに,シスタチンCの発現上昇が確認されたが,内在性α-synucleinの発現に変化はなかった.12ヵ月齢ではシスタチンC, 内在性α-synucleinともに発現上昇が認められた.以上のことから,シスタチンCの発現は神経細胞内のα-synuclein発現上昇に先だって起こり,オリゴデンドロサイト内のα-synuclein凝集体形成によって誘導されていることが示唆された.シスタチンCの発現細胞を特定するために行ったマウス脳のオリゴデンドロサイト単離培養において,MSAモデルマウス由来細胞でのみシスタチンC 発現が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度では,オリゴデンドロサイトから神経細胞間へのシグナル分子がシスタチンC であることを明らかにした.シスタチンCはα-synucleinの発現誘導だけではなく,神経細胞の特に軸索におけるα-synuclein蓄積を促進していた.このことから,オリゴデンドロサイトからのシグナルは神経細胞のα-synucleinの発現調節のみならず,その蓄積制御も担っていることがわかり,当初想定していたよりも研究に広がりが出ている.また,本研究の結果により,MSAの診断・治療法開発の標的としてシスタチンCが加わり,大きな目標に向けても前進できている.本年度の研究は原著論文としてまとめ報告することができた(Suzuki et al., Am J Pathol, 184, 790-799, 2014).
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度で得られた結果をもとに,平成26年度はシスタチンCが引き起こす神経細胞のα-synuclein発現誘導機構を解析する.シスタチンC投与によって引き起こされる細胞内シグナル伝達について,関与が想定される酵素(プロテインキナーゼ等)の活性測定やRNA干渉法による遺伝子発現抑制,阻害剤等によって解析を行う.また,レポーター解析によるα-synucleinプロモーター領域の同定とα-synuclein発現誘導を引き起こす転写因子を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究によってシグナル伝達分子としてシスタチンCが同定された時点で,平成26年度に行う研究にかかる物品が想定していたよりも多いことがわかり,効率的な物品購入と既存の機器・資材・試料の有効活用より生じた額を次年度研究消耗品費として使用することとした. 物品費は核酸の調製・遺伝子改変等の分子生物学的解析用試薬,細胞培養に係る試薬,各種阻害剤や酵素活性測定など生化学的解析用試薬の費用として使用予定である.旅費は成果発表のための国内・海外出張旅費として,人件費・謝金は資料整理及び論文に関する校閲等の費用としての使用を計画している.
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