前年度に有効性を確認したヒツジポリクローナル抗体を用い、Siglec-Hのミクログリア発現特異性についてさらに実験を行った。脳内には、髄膜、血管周囲や脳室周囲にCD163とCD206陽性の特殊なマクロファージが常在することが知られている。それらの脳内マクロファージは、ミクログリアと同様にIba1、CD11b、F4/80といった単球類似細胞マーカー陽性である一方で、Siglec-Hは陰性であることを免疫組織化学により示した。 また、前年度に取り掛かったSiglec-Hノックアウトマウス(ジフテリア毒素受容体ノックインマウス)を用いたミクログリア除去実験系の確立を進めた。この遺伝子改変マウスへのジフテリア毒素の投与により、脳内マクロファージには影響を与えることなくミクログリアのみが脳内から除去された。前年度の結果(ジフテリア毒素の投与は末梢マクロファージには影響しないこと)と併せて、Siglec-Hの遺伝子座は、脳内マクロファージや末梢マクロファージには影響を与えず、ミクログリア特異的に遺伝子改変を行うために有用であることが示された。 さらに、神経因性疼痛モデルを用いたSiglec-Hの機能解析を行った。Siglec-Hノックアウトマウスではミクログリアにおける神経損傷後の炎症性サイトカインの発現上昇が促進されていたため、Siglec-Hを介したシグナルは神経損傷後のミクログリア活性化のブレーキとなる可能性が示唆された。
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