細胞小器官の一つであるミトコンドリアは、細胞内の主要なエネルギー産生の場である。脳やそれを構成するニューロンは、その活動に大量のATPを必要とし、ミトコンドリアで産生されるATPを細胞の生存や活性維持のエネルギー源としている。このため、ミトコンドリアの機能破綻はパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の病因となりうる。本研究対象であるnecdinやSirt1はニューロンにおいて複合体を形成し、ニューロンの生存維持に極めて重要な役割を果たす事をこれまでに見いだしている。本研究では、ミトコンドリア機能のマスター因子であり、かつ、Sirt1の脱アセチル化活性の基質であるPGC-1αに注目し、これら3者の分子メカニズムの解明を目指した。前年度までに、necdinがPGC-1αのユビキチン化の抑制を介した安定化と、それに伴うミトコンドリアの生合成を促進する事が明らかとなっていたため、本年度は、ミトコンドリアの機能破綻が関与する神経変性疾患の一つであるパーキンソン病を例に取り、necdinと神経保護作用について検討した。パーキンソン病は実験的にモデル細胞やモデルマウスが確立しており、また、ミトコンドリアとの相関についても、多くの報告が存在する。これらのパーキンソンモデルを活用し、necdin誘導性のミトコンドリア生合成の促進を介した神経保護作用の効果の確認するために、アデノ随伴性ウイルスによるnecdinの過剰発現系を組み合わせ、検討した結果、パーキンソンモデル細胞、マウス共に、necdinはPGC-1αの発現増加とミトコンドリアの生合成の促進を介したドーパミン作動性ニューロンの保護作用を示した。得られた知見はNature Communicationsに受理、掲載された。
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