研究概要 |
本研究においては, うつ病モデルマウスを用いて, うつ病態におけるミトコンドリア障害の関与を証明し, ミトコンドリアが障害されるメカニズムを解明することを目的としている. C57BL/6Jマウスに1日2時間の拘束ストレスを14日間負荷し, 最後の拘束ストレスの負荷から1週間後に尾懸垂試験および強制水泳試験を行い, うつ様行動を評価した. さらに, 最後のストレス負荷翌日と2週間後のマウスから脳を回収後, ホモジナイズし全脳由来のミトコンドリアを得た. このミトコンドリアを用いて, 酸素消費速度を測定し, ミトコンドリアの活性を評価した. その結果, これらのマウスにおける尾懸垂試験および強制水泳試験の無動時間は有意に増加することが明らかとなり, 本モデルマウスは少なくともこれらのうつ様行動を示すうつ病モデルとして使用可能であることを確かめた. これらのうつ病モデルマウスの脳から単離したミトコンドリアは, ADPを添加したエネルギー要求性が高い状況で酸素消費速度の有意な減少を示した. しかしながら, うつ様行動の程度と酸素消費速度の相関解析を行うと, 両者の間に相関が見られなかった. 一方で, 細胞内で発生する90%の活性酸素はミトコンドリア由来であり, ミトコンドリアに障害が加わると活性酸素の産生量が増加することが知られていることから, うつ病モデルマウスの脳内における活性酸素産生量の指標としてマロンジアルデヒドの含量を測定すると, うつ病モデルマウスの脳において有意に高いことが明らかとなった. 以上の結果から, うつ病モデルマウスの脳ではミトコンドリアに障害が起こっている可能性が推察される. しかしながら, ミトコンドリアの呼吸活性の低下はうつ病の原因では無いと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は以下の様な研究計画を遂行することを目的としていた. ①, うつ病モデルマウスの作成; ②, うつ様行動の評価; ③, ミトコンドリア障害の評価; ④, ②と③の相関を解析 平成25年度は, 慢性拘束ストレスモデルを用いて, うつ病モデルマウスの作成に成功した(①). このモデルマウスを尾懸垂試験と強制水泳試験に供すると, 有意に無動時間の延長が観察され, うつ様行動を示す事が明らかとなった(②). さらに, うつ病モデルマウスから単離した脳由来ミトコンドリアの酸素消費量の低下と, 脳内における活性酸素量の増加を見いだした(③). ④のうつ様症状とミトコンドリア障害の相関解析において, ③のミトコンドリア活性の指標として, 単離ミトコンドリアの酸素消費速度を用いて, ②のうつ様行動の評価として尾懸垂試験および強制水泳試験で観察された無動時間との相関解析を行ったが, 有意な相関を見出すことは出来なかった. しかしながら, 酸素消費速度の減少と, 活性酸素産生量の増加が観察されることから, うつ病モデルマウスの脳ミトコンドリアには何かしらの変化が招来されている可能性が高いと考えられるが, 今回相関解析を行った酸素消費速度の減少は副次的に惹起されたエンドフェノタイプであり, ミトコンドリアの障害とうつ病を繋げる別のファクターの存在が想像される. 今後はうつ様症状と相関するミトコンドリアに関連するファクターを探索していく予定であるが, 平成25年度においては, うつ様行動とミトコンドリア障害を同一個体を用いて評価し, 相関解析を行うという方法論を確立することが出来た. よって, 次年度はこの方法を利用してスムーズにうつ病要症状と相関のある因子を見出すことができると考えている. このような理由から, 概ね順調に進展しているとした.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度も継続してうつ病発症メカニズムに関わる, ミトコンドリアに関連したファクターを探索していく. まずは, 既知のミトコンドリア関連因子であるが, 研究代表者はうつ病モデルマウスにおいて, 脳由来単離ミトコンドリアの酸素消費速度の減少を観察している. ミトコンドリアの酸素消費はミトコンドリア内膜上に存在する電子伝達系を構成する5つのタンパク質複合体によって達成されることから, これらのタンパク質の発現変動を観察する. さらに, これらのタンパク質の発現は, NRFファミリー, Pgc1ファミリー, STAT3などの転写調節因子および補助因子で制御されている事が広く認識されていることから, これら因子の発現変動を観察する. また, うつ病モデルマウスの脳内における活性酸素レベルの増強が観察された事から, 活性酸素もまたうつ病発症の原因となる可能性がある. そこで, 尾懸垂試験および強制水泳試験のうつ様行動の指標と活性酸素レベルの相関解析を行う. さらに, 抗酸化剤の投与を行い, うつ様行動への影響を観察する. 一方で, 未知のミトコンドリア関連因子であるが, 脳から”単離した”ミトコンドリアにおける酸素消費速度が減弱していることから, うつ病モデルマウスのミトコンドリア自体に障害が存在していることは明らかである. そこで, 単離したミトコンドリアからタンパク質を抽出し, 2次元電気泳動後, プロテオーム解析に供することで, うつ病モデルマウスのミトコンドリアで発現変動したタンパク質を網羅的に解析する. 続いて, 定量的な解析を行うと共に, 尾懸垂試験と強制水泳試験から得られたうつ様行動の指標と相関解析を行うことで, うつ病の発症原因となる未知のミトコンドリア由来因子の発見を目指す.
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