本研究では、記憶形成に重要な樹状突起の可塑性におけるα2-antiplasmin (α2AP)の役割とその分子機構を解明することを目的とした。α2AP欠損マウス及び野生型マウスについて、網羅的行動解析を行った結果、α2APがワーキングメモリー、空間記憶、情動記憶、運動学習に関与していることが明らかとなった。また、空間記憶学習過程において、海馬におけるα2APの発現が増大した。これらのことから、α2APが記憶形成において重要な役割を担う可能性が示唆された。一方、海馬由来神経細胞において、外因性α2APが微小管結合タンパク質であるMAP2の発現を誘導し、樹状突起の伸長及び分岐、さらにフィロポディア形成を誘導することを明らかにし、特に成熟した海馬由来神経細胞においては、α2APが樹状突起分岐を誘導することを見出した。また、α2APによる樹状突起の伸長及び分岐にp38 MAPKの活性化が関与していることを明らかにした。さらに、α2AP欠損マウスの海馬由来神経細胞において、スパインのマーカーであるPSD95の発現量が野生型マウス由来神経細胞と比較して低下していた。以上の結果より、α2APは樹状突起の伸長及び分岐やスパインの形成を制御し、記憶形成機構に関与している可能性が示唆された。
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