研究課題
若手研究(B)
本研究では、生細胞で細胞周期を可視化できる蛍光プローブであるFucci (Fluorescent Ubiquitination-based Cell Cycle Indicator)を導入した遺伝子改変ブタの作出を目的としている。本年度は、Fucciを発現する核ドナー細胞の樹立、及びその正常性・機能の確認を行った。計画当初、薬剤選択と度重なる継代による遺伝子導入核ドナー細胞の疲弊が予想された。そこで、作出したクローン胎仔より新たに胎仔線維芽細胞を得ること (細胞の若返り)が必要と考えられた。しかし、実際に樹立した核ドナー細胞は良好な増殖性、形態を維持していたので、核ドナー細胞の若返りを行うための体細胞核移植実験、胚移植実験は必要無く、Fucciを導入した遺伝子改変クローンブタの作出までを一気に進めることができた。体細胞クローニングに使用する核ドナー細胞は、Fucciを発現させる2つの遺伝子コンストラクトをブタ胎仔線維芽細胞 (PFF)ヘ導入することにより樹立した。樹立した核ドナー細胞のタイムラプスイメージングにより、細胞周期の進行に伴う蛍光色の変化、つまり細胞周期プローブの機能発現を確認した。この細胞を用いて得られたクローン胚盤胞において、Fucciプローブの蛍光発現が観察された。さらに、構築した核移植胚を2頭のレシピエントブタに胚移植した結果、1頭から8頭のクローン胎仔(作出効率: 8.6%, 8/93)を 、他の1頭から4頭のクローン産仔(作出効率: 4.3%, 4/93)を得た。このようにFucci遺伝子の導入による発生阻害は見られず、遺伝子改変クローンブタを作出することができた。作出された遺伝子改変ブタ胎仔及び産仔の臓器におけるFucciプローブの蛍光発現については、現在詳細な解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
これまでに我々は、Fucci以外の蛍光タンパク発現ベクターを用いて、核ドナー細胞樹立のソースとなる初代培養細胞 (ブタ胎仔線維芽細胞)への遺伝子導入条件、薬剤選択条件を決定していた。そのため本研究ではFucciを発現する核ドナー細胞を計画通り樹立することができた。Fucciを導入したマウスやヒト細胞が既に報告されているが、Fucciを発現するブタ細胞は本研究において初めて作出された。これにより、本年度の研究実施計画である核ドナー細胞の樹立及び細胞周期プローブとしての正常性・機能確認が達成された。また、樹立した核ドナー細胞を用いて得られたクローン胚盤胞でも、Fucciプローブの蛍光が確認された。さらにFucciを導入した遺伝子改変クローンブタの作出にも到達することができた。計画当初、遺伝子導入後の薬剤選択と度重なる継代により核ドナー細胞が疲弊することが懸念されたが、樹立した核ドナー細胞は良好な増殖性、形態を維持していたので、クローン胎仔を作出して新たに胎仔線維芽細胞を得ること (細胞の若返り)は不要であった。
これまでの研究の結果、Fucciはブタ細胞においても機能的であることを確認し、樹立した核ドナー細胞は増殖性や形態が良好なことから、当初の計画にあったクローン胎仔より新たに胎仔線維芽細胞を得ること (細胞の若返り)は不要となった。当初の計画より早くFucci遺伝子導入クローンブタの作出することに成功したので、今後は得られたクローンブタの臓器・組織について、分子生物学的、組織化学的解析を重点的に行う。また、得られたクローン胎仔及び産仔から樹立した線維芽細胞についても、Fucciの蛍光発現や機能を確認する。さらに作出したFucci導入ブタを成豚まで飼育後、野生型のブタとの自然交配により後代産仔の作出も行い、導入遺伝子の伝達や後代産仔の臓器・組織における蛍光発現についても調べる。
計画当初、遺伝子導入後の薬剤選択と度重なる継代により核ドナー細胞が疲弊することが予想されたが、樹立した核ドナー細胞は良好な増殖性、形態を有していた。そのため、一旦クローン胎仔を作出して新たに胎仔線維芽細胞を得ること (細胞の若返り)の必要性が無くなった。これにより、核ドナー細胞の若返りを行うための体細胞核移植実験及び胚移植実験を実施せず、研究を遂行することができた。次年度の研究費の使用予定は、作出した遺伝子改変ブタの解析する為の物品費用として1,000千円、契約農場への交通費(国内旅費)として50千円、論文校閲費用(謝金など)として200千円、その他の費用(論文投稿費用、屠体処理費用など)として450千円を計画している。次年度へ繰り越した残額は、後代産仔の作出実験とその解析に充てる。研究費の使用予定として、作出する後代産仔を解析する為の物品費用として379千円、契約農場への交通費(国内旅費)として50千円、その他の費用(交配費用、飼育費用、ワクチン代、屠体処理費用など)として400千円を計画している。
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