研究課題/領域番号 |
25830071
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 いづみ 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (40634994)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 癌 / 分子間相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では膵癌第一選択薬の抗がん剤であるゲムシタビンが酸化ストレスとして働きDJ-1による細胞死抑制効果を増強する結果、ゲムシタビンに耐性を示す癌が現れると予測し、膵癌のゲムシタビン耐性機構をDJ-1によるp53抑制効果に着目して研究を進めている。 平成25年度、我々は膵癌細胞4種類がゲムシタビンに対する感受性が異なることを見出した。その感受性はゲムシタビン濃度10-8Mで細胞死を起こすものからゲムシタビン濃度10-4Mに対しても細胞死を起こさないものまでバリデーションがあり、本研究を進める上で必要な細胞条件を確立することが出来た。また、DJ-1とp53の結合実験を行った結果、DJ-1とp53の結合部位は少なくとも2箇所以上あることが考えられた。平成26年度はDJ-1とp53の結合阻害効果評価系として表面プラズモン共鳴(SPR)法での分子相互作用解析実験系の構築に着手した。SPR法を用いた相互作用解析において再生可能な実験系とするため、biotin化配列をDJ-1 C末端に配した新たな発現コンストラクトを作成し、高収率での精製に成功した。さらにp53のDNA結合領域の発現コンストラクトを作成し2段階精製とすることで高収率での精製系を構築した。現在DJ-1とp53の相互作用解析を行っている。DJ-1は簡単に自己酸化を起こすため酸化状態を調節しながら相互作用解析を行う必要がある。また、DJ-1-p53相互作用に加え、DJ-1発見時から関連が示唆されていたMAPキナーゼ経路へのDJ-1の相互作用を調べ、Rafとの直接結合によるMAPキナーゼ経路の活性化が明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りゲムシタビン感受性の異なる膵癌細胞を用いたアッセイ条件を確立してDJ-1、p53量と修飾変化を明らかにした。また、本研究において重要であるDJ-1発現量とゲムシタビン耐性機構の関連を示すことが出来た。新たな相互作用解析法に必要なDJ-1, p53の発現精製法を確立し、DJ-1の酸化と量体をコントロールしながら解析を行う系を樹立している。さらにDJ-1-p53相互作用に加え、RafとDJ-1の直接結合を明らかにし、Rafのリン酸化量がDJ-1依存的に増加することによって、 MAPキナーゼ経路を活性化する作用を明らかにすることができた。癌増殖にとって重要なシグナル経路であるMAPキナーゼ経路へのDJ-1の関与点を示せたことは非常に大きな進歩である。平成26年度は出産と育児に伴う休業期間が生じたため研究が中断したが、癌細胞におけるDJ-1の機能解明は徐々に達成されつつある。そのため全体評価としては概ね順調であるとした。
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今後の研究の推進方策 |
酸化度により活性が変化するDJ-1では各種評価系においてその酸化度をコントロールしながら実験を行うことが重要である。そのため、DJ-1-P53相互作用の評価を表面プラズモン共鳴(SPR)法や等温滴定型熱量計(ITC)で行うことにより精密に相互作用を解析する。また、DJ-1とp53の結合部位は少なくとも2箇所以上あることが考えられた。そのため、結合部位決定法を変更してDJ-1とp53の共結晶化を行い、構造解析により結合部位を決定する。本研究室では様々なタンパク質をX線構造解析やNMRにて解析してきた。構造解析を行うことにより結合部位に加えて結合時のDJ-1の酸化度も明らかに出来ると考えている。DJ-1-p53結合の阻害評価には計画通りp53転写阻害やDNA結合阻害、細胞死数の変化を調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
出産と育児に伴う休業のため。
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次年度使用額の使用計画 |
設備備品に関しては申請者の所属する北海道大学薬学研究院の改築および機器導入に伴い、安全キャビネットが導入された。それに伴い細胞観察に必要不可欠な倒立型顕微鏡を初期の段階で購入する。消耗品に関しては細胞実験のための培地代やプラスチック製品、各種抗体や試薬、表面プラズモン共鳴(SPR)法での分子相互作用解析実験系に必要なセンサーチップや専用緩衝液、試薬、タンパク質精製に必要な精製カラム、共結晶化試薬を購入する。また、学会参加費用(2回分)を旅費として申請する。
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