研究実績の概要 |
還元型DJ-1タンパク質と酸化型DJ-1タンパク質を大量調製、精製することに成功し、ウェスタンブロッティング法に加え、SPR法においても酸化型DJ-1タンパク質と酸化型DJ-1認識抗体との相互作用を検出することができた。しかしながら、DJ-1の酸化は容易に進むため、実験中にも酸化型DJ-1から不活性型と考えられている過剰酸化型DJ-1に変化してしまうことが懸念された。そこで、1アミノ酸変異DJ-1を作製することにより、酸化剤なしに、酸化型DJ-1の性質を示すことが出来るDJ-1変異体をデザイン、作製し発現精製を行った。作製したDJ-1変異体タンパク質は酸化処理せずともウェスタンブロッティング法、SPR法において酸化型DJ-1認識抗体と結合した。このことは、DJ-1変異体が恒常的酸化型DJ-1モデルとなり得ることを示す。次に、還元型DJ-1、酸化型DJ-1、恒常的酸化型DJ-1モデルとp53の相互作用をSPR法により解析した。解析の結果、p53は酸化型DJ-1と結合すると共に、DJ-1変異体とも結合することが分子レベルで明らかとなった。このことは恒常的酸化型DJ-1モデルがタンパク質結合機能においても酸化型DJ-1のモデルとなり得ることを示す。今後は恒常的酸化型DJ-1モデルを用いて、酸化型DJ-1がp53を制御して細胞死抑制を制御する機構をさらに検討したい。 癌細胞死抑制に働くDJ-1-p53相互作用に加え、細胞増殖経路へのDJ-1の相互作用を調べ、c-Rafとの直接結合によるMAPキナーゼ経路の活性化が明らかにした。DJ-1はc-Rafのキナーゼ部位であるC末領域と結合し、MAPキナーゼ経路のc-Raf, MEK, ERKのリン酸化量を向上させた。このことから、DJ-1は癌細胞死抑制、癌細胞増殖の2つの局面から癌細胞に機能し、その悪性化に関与していることが考えられる。
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