研究課題/領域番号 |
25830074
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
島田 周 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20609705)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 胃がん / マウスモデル / E-cadherin / p53 / エピジェネティクス / 分子標的治療 |
研究実績の概要 |
未分化型胃がん(DGC)は浸潤能と転移能が強く、予後が悪い。我々は、細胞接着分子E-cadherin(Cdh1遺伝子がコードする)とがん抑制因子p53(Trp53遺伝子がコードする)を胃特異的に欠損する(DCKO)マウスを作製し、ヒトDGCに形態学的にも分子生物学的にも類似したDGCを発症する世界初のマウスモデルとして報告した。DCKOマウスのDGC由来細胞株(GC=Cdh1-/-;Trp53-/-)とp53ノックアウトマウス胎仔の胃粘膜上皮由来細胞株(GE=Trp53-/-)の比較により、GC細胞株はがん幹細胞様の性質をもつことがわかった。GC細胞株では、食道・大腸・肝臓・膵臓などの胃以外の内胚葉の分化制御因子のみならず、中胚葉・外肺葉の分化制御因子の発現も認められ、ES細胞などの未分化細胞と同様に、hypertranscription=open chromatinの状態にあると考えられた。また、DCKOマウスのDGCの遺伝子発現パターンを解析した結果、エピジェネティクス変化を受けやすい遺伝子群の発現低下と、エピジェネティクス変化を制御する遺伝子群の発現上昇が認められた。以上より、DGCの発症にはエピジェネティクス変化が重要な役割を果たしていると考えられた。そこで、複数のエピジェネティクス治療薬をGC細胞株とGE細胞株に処理したところ、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とH3K9メチルトランスフェラーゼ阻害剤は低濃度でもスフェア形成を顕著に阻害した。その際、DNA損傷が強く惹起されていることもわかった。これらの薬剤をGC細胞株が皮下移植されたヌードマウスに投与したところ、in vivoでも腫瘍増殖抑制効果を示した。本研究により、エピジェネティクス阻害薬は、open chromatin状態にある、がん幹細胞様のがん細胞に対して、DNA損傷を介して特異的に作用すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GC細胞株とGE細胞株の遺伝子発現パターンの比較と、DCKOマウスのDGCの遺伝子発現プロファイルの解析により、DGCの発症にはエピジェネティクス変化が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。昨年度よりもエピジェネティクス治療薬の種類を増やしてスクリーニングを行ったところ、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とH3K9メチルトランスフェラーゼ阻害剤が、がん幹細胞特異的に作用することがわかった。そして、その分子メカニズムを解明し、in vivoでの腫瘍増殖抑制効果を検証した。以上より、ヒト胃がん治療へのエピジェネティクス治療薬の応用を視野に入れることができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
GC細胞株とGE細胞株のDNAメチル化プロファイルやヒストン修飾プロファイルに差があるのか、ゲノムワイドに解析する。エピジェネティクス治療薬が、マウス胃がん細胞だけでなくヒト胃がん細胞にも効果があるか検証するために、ヒト胃がん細胞株を利用して、同様の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に、担がんDCKOマウスにエピジェネティクス治療薬を投与して、腫瘍体積や生存期間について解析する予定であった。しかし、ヌードマウス皮下移植腫瘍への効果を解析した結果、エピジェネティクス治療薬単独では、寛解には至らないと考えられた。そのため、計画を変更して、エピジェネティクス治療薬と他の抗がん剤との併用による相乗的効果を解析することとしたため、未使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のため、次年度に担がんDCKOマウスにエピジェネティクス治療薬と他の抗がん剤の両方を投与して、腫瘍体積や生存期間について解析する予定であり、未使用額はその経費に充てることとしたい。また、本研究結果をまとめて、論文として報告・発表する経費としても使用したい。
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