研究課題/領域番号 |
25830076
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐々木 信成 金沢大学, がん進展制御研究所, 博士研究員 (40415170)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | retinoblastoma / cholesterol / mevalonate pathway / cancer stem cell |
研究概要 |
がんの悪性進展過程において頻繁に観察される、がん抑制遺伝子Rbの機能喪失の意義を明らかにするために、Rbの欠失により発現が変化する遺伝子を網羅的に探索した結果、Rbの欠失が脂質代謝の異常、特にメバロン酸経路の様々な遺伝子の発現を誘導していることを明らかにし、それに伴い細胞内コレステロールの量が増加していることを観察した。次に、非接着培養条件下において、Rbの欠失依存的にスフィアの形成を誘導することができる細胞株を作成し、Rbの欠失によるメバロン酸経路の亢進が、スフィア形成の誘導に与える影響について検討を行った。この細胞株をメバロン酸経路の律速酵素、HMGCRの特異的な阻害剤であるスタチンで処理すると、このスフィア形成能が著しく抑制されることが観察された。メバロン酸経路は、コレステロール合成経路を含む複数の分岐を有する代謝経路であるが、それらの経路の中で、コレステロール合成経路に特異的な阻害剤が、スフィア形成を強く抑制すること、そしてコレステロール自身やそこから合成される一部のコレステロール誘導体には、スタチンによって抑制されたスフィア形成能を回復させる作用があることを明らかにした。 これらの結果は、がん細胞におけるRbの欠失が引き起こすメバロン酸経路の異常な亢進が、コレステロールやその誘導体を介して、がん幹細胞様の性質の獲得、維持に寄与していることを強く示唆しており、その現象自体は古くから観察されていた、がん細胞の脂質代謝異常とがんの悪性進展という2つの独立して捉えられていたがん細胞の特徴が、実は密接に結びつき互いに影響を及ぼしていることを示す重要な知見になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がんの悪性進展過程において、Rbの欠失による脂質代謝の異常が与える影響を調べる評価系として、非接着培養条件下におけるスフィア形成の系を確立した。また、多数の分岐を有するメバロン酸経路を様々なステップで抑制する特異的阻害剤を用意して、がんの悪性進展に強く影響を及ぼす代謝経路の同定と作用する脂質の絞り込みを行った。これまでにコレステロール自身と一部のコレステロール誘導体をスフィア形成に影響を与える脂質の候補として同定している。また、Rbの欠失によりその量が変化するコレステロール誘導体を網羅的に調べるために、現在海外の研究室と共同研究を行い、より詳細な解析を行っている。さらに、これらの脂質が、がんの悪性進展を促進する作用機序を明らかにするために、標的脂質の添加・除去や合成酵素の過剰発現等の処理を行った際に、細胞がどのような影響を受けるのか、主要なシグナル分子の発現や活性を観察して解析を進めている。 これらの結果から、本研究は当初の研究実施計画に照らし、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、おおむね計画通りに進展していることから、今後も当初の研究実施計画に沿って研究を推進する予定である。具体的には、がんの悪性進展に強く影響を及ぼす脂質を同定するために、海外の研究室との共同研究を進め、Rbの欠失により細胞内の量が変化するコレステロール誘導体を同定し、それらの脂質の量を変化させた際のスフィア形成等に与える影響を観察する。また、これらの脂質とがんの悪性進展を繋ぐ分子メカニズムを明らかにするために、同定された脂質が影響を及ぼす、主要なシグナル分子・経路の同定を行う。さらに、生体内における脂質代謝異常の影響を調べるために、Rbを欠失したがん細胞を免疫不全マウスへ移植する実験系を樹立し、標的脂質の合成阻害剤の投与や、合成酵素のノックダウンが、腫瘍形成能に及ぼす効果を評価する。 これらの研究を推進し、「Rb欠損による脂質代謝の異常な亢進が、がんの悪性進展において重要な役割を担っている」という仮説を立証し、将来的な臨床応用への基盤を築くことを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度にDNAマイクロアレイの実験を行うことを予定していたが、並行して進めていた他の実験の結果を踏まえ、使用する細胞、サンプル採取の条件を変更し、次年度に実行することにしたため。 DNAマイクロアレイの実験を次年度に変更した以外に大きな変更はないため、当初の研究計画に従って研究を進める予定である。
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