研究課題
細胞ががん化する際には、様々な代謝異常が生じることが知られているが、近年これらの代謝異常が、がん細胞の増殖や悪性化に深く関与していることが報告され、がん治療の新たな標的として注目を集めている。がん抑制遺伝子RBは、細胞周期を制御する因子であり、長年様々ながんのイニシエーションに関与すると考えられてきた。しかし、近年RBの機能喪失が、むしろがんの悪性進展過程において頻繁に観察されるようになり、この過程におけるRBの新たな役割が注目されている。我々は、マウス腫瘍細胞を用いてRbの欠失により発現が変化する遺伝子を網羅的に探索し、Rbの欠失が脂質代謝経路、特にメバロン酸経路の多くの酵素の発現を誘導していることを見出した。これまでに我々は、RB の不活性化依存的にスフィア(がん幹細胞様の性質を持つ細胞集団)形成能や、ホルモン療法抵抗性といったがん細胞の悪性化形質を獲得するヒト前立腺がん細胞株を樹立しているが、この細胞においても、RBのノックダウンが、メバロン酸経路の遺伝子発現を誘導することを確認した。そこで、このRBの不活性化依存的な悪性化形質の獲得に、脂質代謝の異常がどのように影響を及ぼすのか、またどのような脂質が作用するのかを検討した結果、メバロン酸経路の中でも特にコレステロール合成経路の亢進が重要であり、その結果生じるコレステロールやその誘導体脂質が作用している可能性が示唆された。次に、これらの脂質ががんの悪性化形質の獲得に寄与する分子メカニズムを検討した結果、コレステロールががん細胞のROSレベルを低下させることにより、スフィア形成能の獲得に寄与していることが明らかになった。以上の結果は、脂質代謝の制御というRBの新たな機能と、その破綻によって引き起こされるメバロン酸経路の異常な亢進が、がんの悪性進展に寄与している可能性を強く示唆するものである。
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STEM CELLS
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10.1002/stem.1971
http://omb.w3.kanazawa-u.ac.jp/