研究課題/領域番号 |
25830077
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
北嶋 俊輔 金沢大学, がん進展制御研究所, 特任助教 (90566465)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Rb / IL-6 / Breast cancer |
研究概要 |
これまでにがん抑制遺伝子Rb複合遺伝子欠損マウスを解析した結果、がん悪性化過程におけるRb不活性化によりがん幹細胞様細胞が誘導され、その分子機構として、IL-6を始めとする種々のサイトカイン分泌亢進および下流のSTAT3活性化が重要であることを明らかにした。本年度は、これらマウスモデルより得られた研究成果のヒト乳がん研究への応用と、Rbによるサイトカイン発現制御の分子機構解明を目指した。 The Cancer Genome Atlasに登録されているヒト乳がん患者の網羅的遺伝子発現パターンの解析から、我々が構築したマウスモデルにおいてRb不活性化により誘導される遺伝子群が、悪性度の高い、あるいは分化度の低い乳がんで高発現している事を見出した。そこで野生型RB遺伝子を持つ乳がん細胞株であるMCF7においてRBを不活性化したところ、マウスの系と同様にIL-6の発現が誘導され、3次元培養条件下でSphere形成能を示す細胞集団の割合が高くなることを明らかにした。さらにIL-6中和抗体を用いた実験結果より、RB不活性化によるSphere形成能の誘導、およびタモキシフェン耐性獲得にIL-6の分泌亢進が寄与することを明らかにした。 次に、IL-6の分泌亢進が誘導される分子機構の解明を目指した。その結果、RB不活性化により誘導される酸化的代謝経路の亢進とそれに伴う細胞内ROSの増大により、様々なサイトカイン群の分泌が惹起されることを明らかにした。今後は、RB不活性化によって誘導される代謝リプログラミングの鍵分子やサイトカインが乳がん細胞の新規治療標的となり得るかを検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請における、申請者らの主な研究目的は「Rbによるサイトカイン発現制御機構と、これらのサイトカイン群ががん微小環境形成と転移に与える影響を解明すること」を証明することである。本年度は、主にRbによるサイトカイン発現制御機構の解明と、マウスモデルで得られた結果をヒトがん細胞へ応用することに成功した。本結果により、本申請初年度に計画した「Rbによるサイトカイン発現制御機構の解明」および、次年度に予定していた「ヒトがん細胞への応用」等の計画を十分に達成したと考える。一方で、本年度に計画していた「サイトカイン分泌亢進ががん微小環境へ与える影響の解析」の項目に関しては、RNAi法を用いた実験結果より一部ポジティブな結論を得ているものの、がん微小環境の詳細な解析を含めて達成できていない点も多い。その理由として、Rb複合変異マウスと、サイトカインまたはサイトカイン受容体欠損マウスとの交配、樹立にかなりの時間を要していることが挙げられる。従って、解析は次年度に行うこととなった。具体的な内容については「今後の推進方策」に記載する。以上のことから、平成26年度の研究計画は、当初の計画とは多少の変更が生じるものの、次年度に予定していた研究計画を前倒しですでに達成しているという観点からも、本申請はおおむね順調に進行した、と考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、Rb遺伝子欠損に依存して乳がんを形成するモデルマウス(MMTV-Cre;Rbflox;p53-/-)と種々のサイトカインおよびサイトカイン受容体欠損マウスを掛け合わせた複合変異マウスを作製しており、誘導される腫瘍の大きさやマウスの生存曲線、病理組織学的観察による腫瘍内微小環境の解析を行うことで、Rb遺伝子欠損に依存して生じる乳がんの形成に、IL-6およびCCL2の分泌亢進による炎症性微小環境の形成が寄与するか否かを検討する。またこれと並行して、乳がんモデルマウス(MMTV-Cre;Rbflox;p53-/-)においてRb遺伝子欠損依存的に生じた乳がん組織を用いて、網羅的遺伝子発現解析、トランスクリプトーム解析、サイトカインアレイ解析等を行い、炎症性微小環境のプロファイリングを行なう。これらの結果から、Rb不活性化により誘導される炎症性微小環境形成に関与する新規候補因子を特定し、将来的にこれらの遺伝子欠損マウスと乳がんモデルマウスとの交配実験を実施することで、特定された遺伝子が、微小環境の形成を通して乳がんの発生や悪性化に及ぼす影響を、個体モデルの病理学的解析により明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の予算使用計画はおおむね予定通りに進行した。多少の繰り越し分が生じた理由については、本年度に予定していたマウス実験を次年度に変更したため実験動物購入費が抑えられたこと、またデータベースを用いたin silico解析の割合が予定よりも高くなったことが挙げられる。 本年度に引き続き、次年度も主に抗体、定量的PCR用試薬、阻害剤、培養用用品などの実験消耗品などに研究費を使用する。またマイクロアレイ解析やメタボローム解析など網羅的解析のための外部発注費用、および実験動物の購入費に当てる割合を、本年度と比較して増やす予定である。本年度に消耗品使用の効率化より生じた繰り越し分は、次年度も同様に上記の実験消耗品に使用する。
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