研究課題/領域番号 |
25830079
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森岡 洋子(田村洋子) 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 研究員 (50598349)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | がん / 血小板 / 細胞融合 |
研究実績の概要 |
細胞融合は、酵母からヒトに至る生物に見られる現象で、その生存に必須の現象であるとされている。他方で近年では、がん細胞が、血管内皮細胞や間質細胞、骨髄に由来するマクロファージや白血球を相手として細胞融合を起こし、その結果悪性度を亢進するという報告がなされている。すなわち、細胞融合が、生命にとって脅威でもあるがんの進行に寄与することが明らかとなりつつあり、そのメカニズムのさらなる解明は今や必須であるといえる。本研究課題では、がん細胞と血小板が細胞融合するという申請者らの新たな発見を端緒として、これに関与する分子の同定と、がんの悪性化が起こる分子機構の解明を目指している。 これまでに申請者らは、いくつかのがん細胞株は血小板と自発的に融合することを見出し、続いてそれらの細胞の挙動を調べた。その結果、血小板との融合により、がん細胞の足場非依存性増殖能が亢進すること確認した。がんの浸潤・転移に関係する細胞運動能について、引き続き次年度も解析を継続する。 また申請者らは、最近、血栓形成に関与する血漿中の凝固因子von Willebrand Factor(vWF)の立体構造を維持することにより、血栓を高頻度に形成し、マウスに血栓症を引き起こしうるアミノ酸配列を明らかにした(Morioka et al., 2014)。これは、既に同定されているvWF分解酵素(ADAMTS-13)の他に、血栓形成に関わる分子の存在を示唆し、その分子メカニズムの解明が期待される。その結果、がん患者でみられる、血小板産生の亢進と血管内で頻発する塞栓の形成機構に洞察を与えるものと考えられるため、次年度も引き続いて解析を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞と融合する骨髄由来細胞として、既に明らかとなっている白血球やマクロファージに加えて、血小板もその一つであると確認することができた。血小板と融合したいくつかのがん細胞では増殖能の亢進がみられたことから、融合細胞の挙動と、悪性度への関与についてのさらなる解析を行う。また申請者らが明らかにしたvWFの立体構造を維持しながら血栓症様症状を引き起こしうるアミノ酸配列は、現在同定されている唯一のvWF特異的切断酵素ADAMTS-13以外の分子の探索、その分子機構の解明につながると考えられる。これは、がん患者で頻発する血栓の原因究明の一助となる可能性を有しており、さらなる解析が期待される。このように、vWFと血栓形成の解析と並行しながらも、おおむね順調に進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、いくつかのがん細胞と血小板の細胞融合が、悪性度の亢進に関与することを示すことができた。今後は、融合細胞の挙動についての解析を行い、それに関わる分子の同定を進める。さらに申請者らは最近、いくつかのがん細胞では、培養条件によって内在性vWFの発現量が変化することを確認した。これは、血小板も関与する血行性転移のメカニズムを解明する点でも興味深い。したがって、vWFについては、血栓形成の分子機構についての見地に加え、がん細胞における発現とその役割を明らかしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞融合に関わる細胞膜上の分子の同定のため、予定通り細胞膜画分調製の条件検討を進める一方で、それ以前から取り組んでいた凝固因子vWFの発現量変化もがん細胞で確認されるにあたって、さらなる検討を行った結果、当初の実験に遅延が生じてしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き、がん細胞の挙動に対するvWFの関与についての研究と、遅れている当初の予定に関わる研究に必要な経費として使用する。
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