研究課題
我々は、骨髄異形成症候群および白血病で高頻度に欠失を認める第7 番染色体長腕欠損の責任候補遺伝子を解析する過程で、ヒストン脱メチル化酵素をコードするFbxl10 の過剰異常が白血病発症に関与していることを見いだした。さらに、Fbxl10 を造血幹細胞で高発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作製し、Fbxl10 Tgマウスが生後約1年で白血病を発症した。この申請では、Fbxl10の過剰発現が白血病発症に関与する分子機構について解析を行った。コントロールマウスとFbxl10 Tgマウスの造血幹細胞を単離し、次世代シークエンサーを用いて網羅的なRNA発現解析を行った。得られた結果をGene set enrichment analysisにより解析を行ない、Fbxl10 Tgマウスの造血幹細胞においては、酸化的リン酸化経路の遺伝子群の発現が上昇していることを見いだした。そこで造血幹細胞におけるATPとROSの産生を解析したところ、Fbxl10 Tgマウスの造血幹細胞においてはATP産生が有意に増加しているがROS産生は上昇しておらず、Fbxl10過剰発現は純粋なエネルギー増加により造血幹細胞増殖を促していると考えられた。さらに、Fbxl10 Tgマウスの造血幹細胞において数十倍の発現上昇を認めたNsg2 (Neuron specific gene 2) 遺伝子を正常造血幹細胞に導入したところ、サイトカイン存在下で分化障害を認め、移植マウスにおいては未熟な分化細胞の増加を認めた。これらの結果を総合すると、Fbxl10の造血幹細胞における過剰発現は、エネルギー代謝亢進と分化障害を誘導し、これらの経路を介して白血病発症に寄与していると考えられた。我々の結果は、ヒストン修飾因子の脱制御による白血病発症機構に、新しい知見をもたらしたものと考えられる。
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Blood
巻: 125 ページ: 印刷中
10.1182
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