これまでの検討から、NLRR1の細胞内シグナルの中でも特に細胞増殖を促進する成長因子(EGFやIGF)によるシグナル伝達を正に制御し、がんの増悪化に寄与する一方で、ALKなどの他の受容体シグナルを抑制する機能を持つことが明らかとなった。一方、同じファミリー遺伝子であるNLRR3は細胞分化を促進することが示されていた。平成27年度では、さらにもう一つのファミリー遺伝子であるNLRR2の機能が明らかとなってきた。NLRR2は他のファミリーとは異なり、細胞内ストレス応答におけるJNK/c-Junシグナル伝達の活性化により遺伝子発現制御を受け、神経芽腫由来細胞においてレチノイン酸処理やDNA傷害ストレスに対して細胞生存を高める効果があることが分かった。神経芽腫の臨床サンプルにおいて遺伝子発現レベルを検討した結果、NLRR2高発現群において有意に予後が不良であることが明らかとなった。このことはNLRR1およびNLRR2の高発現により神経芽腫が増悪化することが示唆される。 一方、NLRR1と神経芽腫モデルマウスとのコンパウンドマウスの作出はできなかったが、NLRR3のノックアウトマウスの戻し交配作業を進めつつ、表現型の解析を始めた。これまでのところ、NLRR1ノックアウトマウスとは異なり、NLRR3ノックアウトマウスにおいては顕著な表現型は確認されていない。 本研究課題によって、NLRR1およびそのファミリー遺伝子による細胞内機能およびその遺伝子発現制御機構が明らかとなった。これらの遺伝子は細胞増殖・分化を制御し、神経芽腫細胞の運命決定において重要な役割を果たすことにより、神経芽腫の進展に大きな影響を及ぼし予後因子となることが明らかとなった。今後は得られた知見がNLRRファミリー遺伝子を標的とした新規治療法開発につながることが期待される。
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