研究実績の概要 |
ヒストン修飾を認識するタンパク質「リーダー」は、エピジェネティック情報を細胞の表現系へと変換する重要な因子である。本研究では、細胞の分化多能性に関わるリーダーを同定する目的で、クロモドメインタンパク質Cdyl2の正常マウス幹細胞およびがん幹細胞での機能解析を遂行した。 最終年度である本年度では、Cdyl2のマウスES細胞の分化への影響をin vitroおよびin vivoで解析した。Cdyl2を通常の2倍発現させたマウスES細胞を作製し、未分化マーカーSox2が高く発現していること、また、レチノイン酸による分化誘導後も未分化マーカーOct-4, Nanogの発現が検出されることを見いだした。テラトーマ形成能試験から、コントロール細胞からのテラトーマは三胚葉由来の組織から成っていたが、Cdyl2過剰発現細胞を用いた場合は、ほとんど全てが外胚葉由来の組織であることがわかった。昨年度の成果と合わせると、Cdyl2はマウスES細胞の未分化状態の維持に重要であり、過剰発現により分化能を撹乱することを見いだした。さらに、ChIP assayを行ったところ、分化関連遺伝子の転写開始点近傍にCdyl2が結合することがわかった。免疫沈降-ウェスタンブロットにより、Cdyl2はヒストン修飾酵素EZH2と結合すること、H3K27me3を認識することが示された。 一方、ヒトがん幹細胞におけるCDYL2の機能を明らかにする目的で、CDYL2ノックダウン細胞を樹立した。ノックダウンにより細胞増殖が若干抑制される傾向が観察されたが、がん幹細胞への影響は明らかではなかった。現在は、過剰発現細胞を樹立し、その解析を行っている。 以上のことから、Cdyl2は、EZH2によってメチル化された分化関連遺伝子のクロマチンに結合し、それらの発現を抑制することで、ES細胞の未分化性を保っている可能性が示された。
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