研究課題
本研究では、血中循環がん細胞(Circulating tumor cell, 以下CTC)の遺伝子診断を実用化するため、安定的遺伝子解析法の確立を進めている。本年度は研究実施計画に基づき、1個から数個の培養細胞からの安定的cDNA合成の方法開発を行った。まず第一に、遺伝子発現解析を行うため、1個から数個の培養細胞株をマイクロインジェクターを用いて採取し、cDNA合成を試みた。微量の全RNAからcDNAを得る試薬は数種が市販されている。これら市販試薬は、推定1細胞含有量まで希釈した全RNAを試料として用いて逆転写反応を行い性能評価を行っている。実際に同法で評価すると、pgオーダーの極微量な全RNAからも十分量のcDNA合成は可能であった。しかし、CTC遺伝子診断では、抽出の段階で1細胞単位から全RNAを抽出するため、実際に回収できるRNA量は推定1細胞含有量を大幅に下回ると推定できる。そのため、本年度の研究代表者が行った実験では、遺伝子発現解析の定量性は最低でも10細胞以上なければ認められなかった。また培養細胞株を用いた検討法だけでは、実際のCTC遺伝子診断解析を模倣するには不十分と考え、研究協力者とともに、ヒト由来癌細胞株を用いたCTCモデルマウスの開発を行った。このCTCモデルマウスでは、高転移性のヒト由来培養癌細胞を皮下移植し、一定期間経過すると多数のCTCが末梢血中にて検出できる。このモデルマウスを使用することで、担がん患者からの採血、CTCの分離、解析までの一連の流れを模倣する事が可能で、より実践に即した課題解決を行う事が可能となった。最後に、CTCの有力なマーカー候補と考えられるへパラン硫酸糖鎖GlcA-GlcNH3+(JM403抗原)の発現を研究した。この抗原は、胎児の上皮細胞に特異的に認められたことから、悪性腫瘍のうちでも頻度の高い癌(癌腫)のマーカーとして有望であることが判明した。
3: やや遅れている
採取した試料の全RNAの安定性はまだ十分に検討できておらず、研究計画に比して最適化条件の確立はまだ達成できていない。また、安定的遺伝子解析法の確立と平行して、プロファイリング用遺伝子の検討は進めているが、最適化条件の確立が未達であるため、十分に評価できていない。
引き続き、全RNAの安定的遺伝子解析条件の検討を行い、最適条件を確立する。本法により得られた試料が従来の解析法に適用可能な品質かどうか評価した上で、当初の計画に従い、CTC遺伝子解析のための遺伝子セット及び解析システムをデザインする。また、研究計画に従い,平成26年度の研究を開始する。
物品費の主な用途は、解析費用等であった。研究目的の達成度が計画段階よりやや遅れているため執行できず、次年度に持ち越すこととなった。前年度行う予定であった解析等は、本年度実施する。次年度使用額は主にそのために用いる。
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PLoS ONE
巻: 9 ページ: e88821
10.1371/journal.pone.0088821