本研究では、血中循環がん細胞(circulating tumor cell、以下CTC)の遺伝子診断を実用化するため、再現性よく遺伝子解析を行う方法の確立に取り組んだ。 平成27年度は、前年度までに検証した希釈微量精製RNAを用いた場合の条件をもとに、培養細胞を用いた場合での検証を行った。また実際に血液から回収した患者血由来CTCに対しても検証を行った。平成26年度までの研究で、pgオーダーの極微量RNAをスタート材料としてcDNAを合成することは可能であった。しかし、従来のqPCRによる遺伝子解析に必要な十分量のcDNAを一細胞から調整するのは、リスクが高い。その理由は、PCRをcDNA増幅の基本技術として用いているため、PCR効率に起因する増幅バイアスは避けられないからである。そこで、平成27年度はより高感度で、網羅的な解析を行うことができる遺伝子解析法として、qPCRアレイから次世代シーケンサー(NGS)による解析法へ転換することとした。よって最終年度は、比較的安価に再現性良く解析できるNGSライブラリ調整法および解析法の検討を行った。 NGSは、取り扱う情報量が多いため、少数の遺伝子を解析するには適しているとは言いにくいが、微量な試料量でも網羅的解析が可能であり、標的遺伝子を決定できれば、遺伝子数を限定して解析することで、多検体で高速に解析可能であるというメリットがある。 今回取り組んだ範囲では、一細胞からのRNA-seqは可能であった。しかし結論として、安定的に解析するために必要な条件は、cDNA合成のプロセスよりもむしろ、微量ハンドリングの効率化や細胞の単離回収の精度向上といった点にあるようである。
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