研究課題/領域番号 |
25830108
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
鳴海 兼太 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (10534258)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がんワクチン療法 / 循環血中腫瘍細胞 / オーダーメイド治療 |
研究概要 |
同一のがん種においても患者ごとにMHC上に提示されるがん抗原は異なっているおり、個別化がん免疫療法を実現するためには、患者ごとにがん抗原を同定することが理想である。しかし腫瘍細胞において、提示されているがん抗原を網羅的に効率よく解析する方法は確立されていない。そこで本研究では、循環血中腫瘍細胞(CTC)の利点を生かしてMHC classI分子上のペプチドを酸解離法により溶出し、質量分析法によりペプチドを網羅的に解析することを目的としている。 平成25年度は研究計画に基づき、がん細胞株を用いて細胞株のMHC classI上に提示されるペプチドについて解析を行った。まず、日本人に最も多い遺伝子多型であるHLA-A24を保有し、さらに腫瘍抗原としてMAGE-1由来ペプチドが細胞傷害性T細胞の標的となることが報告されているTE-11細胞(ヒト由来中分化型食道扁平上皮癌細胞株)に対して酸解離法を用い、ペプチド溶出を行った。9個のアミノ酸配列を同定するために、2DICAL(2 dimensional image converted analysis of LCMS)の手法によりアミノ酸配列決定を行った。その結果、TE-11細胞株より13596個の9アミノ酸からなるペプチド断片が得られた。これらのペプチドのうちHLA-A24上に提示されやすいと思われるものをBIMASにて予測したところ、BIMAS score高値であり、HLA-A24上に提示されているものと推定されるペプチド、およびその由来タンパク質を24個同定することができた。この操作に対して必要となった細胞数は3×10~8であった。今後CTCに対して応用するにはより少ない細胞数でも同様の操作ができることが必要であり、引き続き条件検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に基づき、腫瘍細胞株から酸解離法を用いてペプチド溶出が可能であること、また溶出したペプチドから9個のアミノ酸からなるペプチドのアミノ酸配列決定が2DICALの手法により解析可能であることを明らかとした。この実験より、腫瘍細胞として3x10~8程度の細胞数があれば本手法による解析が可能であることが分かった。今後CTCに対して応用することを考えるにあたり、より少ない細胞数でのペプチド溶出が必要となることから、どこまで細胞数を減らしてもペプチドを検出しうるかについて、さらなる検討が必要である。 一方、検出されるペプチドを検討すると、想定以上に細胞内タンパク質のペプチド断片が多く検出されることが分かった。実験の過程において細胞破壊的な操作は行っていないが、今回用いた10~8という大量の細胞において操作を行うと、細胞剥離洗浄や酸解離の段階において、非特異的な細胞破壊が起こり、細胞内タンパク質が溶媒中に放出されていると考えられる。現在問題となっているこのタンパク質は高濃度ではないものの、我々が本来検出したいMHC classI上のペプチドを検討する上で阻害要因となる可能性がある。そのため、当初の予定にはなかったが、これらのタンパク質を2DICALによる解析前に除去するという工程を追加する必要があることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
まず早急に解決すべき問題として、酸解離非特異的に遊離するタンパク質・ペプチドによるアーチファクトがある。これを除去する方法の開発利用が急務であり、解決方法として、電気泳動移動度の差をもって高分子量タンパク質を除去することを検討する。 問題が解決できれば、CTCを用いた解析へ応用するために、より少ない細胞数でペプチド同定が可能かどうかの検討を行う。ヒト膵がん細胞株(AsPC-1、Panc-1、BxPC-3 など)を用いて酸解離法を施行し、遊離上清中に含まれているタンパク・ペプチドについて2DICALを用いてペプチド配列決定を行う。対照となる正常膵管上皮細胞株としては、正常ヒト膵管上皮を不死化した細胞株HPDEを使用する。細胞数がCTCへの応用可能なレベルまで減少させることができれば、健常人の血液内に少数のがん細胞株を混入し、CTCに見立てて細胞を回収し、血球系のその他の細胞由来のペプチドがどの程度測定に影響を与えるか検討する。 これらの後、実際にヒト膵臓がん患者検体よりCTC を回収し、CTC 細胞表面のMHC classI分子上に提示されているペプチドを遊離し、質量分析技術を駆使してアミノ酸配列決定から標的タンパクの決定を行う。続いてこの得られたペプチドが実際に細胞傷害性T細胞を誘導できるかどうかをin vitro で検討する。同時にCTC 上に提示されるがん抗原が膵がん原発巣において発現しているかどうかを定量的RT-PCR 法や免疫組織染色などにより検討し、原発巣とCTC 上のがん抗原の関連性について明らかとする。
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