研究課題/領域番号 |
25830109
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山内 肇 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 博士研究員 (50541273)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / 細胞・組織 / 細胞競合 / ケミカルバイオロジー / 抗がん物質探索 |
研究概要 |
がん発生のごく初期段階において、変異細胞は正常上皮細胞に囲まれた状態で存在する。この正常上皮細胞とがん変異細胞の間では細胞競合が起こり、正常上皮細胞からの様々な影響を介して変異細胞は排除されることがわかっている。本研究ではこの正常上皮細胞と変異細胞の間で起こる相互作用に注目し、正常上皮細胞による排除を促進する低分子化合物の探索と機能解析を行った。 当該年度では、正常上皮細胞が囲まれた変異細胞が排除される機構を促進する低分子化合物のハイスループットスクリーニングと機能解析を行った。細胞はイヌ腎臓尿細管上皮細胞を用いた。正常上皮細胞とテトラサイクリン依存的にGFPタグ付きRas変異を発現する細胞をそれぞれ10:1の割合で混合後、一層の細胞層を形成した後、テトラサイクリン添加でGFP-Ras変異を誘導させることにより、がん発生のごく初期段階を模倣した。この際に低分子化合物を同時添加し、一定時間後に細胞イメージングシステムによりGFP蛍光強度の変化を調べることで、正常上皮細胞の排除機構を促進する化合物を探索した。添加する低分子化合物は、約20万種類用意されたライブラリーのうち、交付申請前に実施した約2,600種類からなる既知化合物ライブラリーに加え、9,600種類に厳選されたコアライブラリーを用いた。 低分子化合物のスクリーニングの結果、2種のライブラリーから正常上皮細胞と変異細胞の細胞競合を促進するヒット化合物をそれぞれ1つ、合計2つ見出した。さらに、約20万種類の化合物から上記で見出した2つのヒット化合物の類縁化合物を探索した。その結果それぞれ8~10種の構造的に類縁した化合物を選択し、それぞれの化合物についてこれまでと同様の解析を行った。その結果、ヒット化合物よりも正常上皮細胞に対する毒性が低くかつ細胞競合促進効果の高い化合物をそれぞれ1つずつ、合計2つ見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では正常上皮細胞による変異細胞を排除する細胞競合機構を促進する化合物のスクリーニングを行った。これまで細胞競合を促進する化合物は当研究室以外では見つかっておらず全く新規の取り組みであったが、これまで約12,000種類の化合物のスクリーニングの結果、既に2種類の細胞競合を促進するヒット化合物を見出した。また、約20万種類からなる化合物からヒット化合物の類縁化合物を8~10種類選択し、同様の解析を行ったところヒット化合物よりも効果的な化合物を各1種類見出した。さらに化合物合成を担当する研究室との共同研究により上記の化合物の大量合成が可能となり、より多くの解析を実施することができた。 以上のことから本研究はおおむね順調に進展しており、今後の研究推進についても順調に進むと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は約20万種類からなる化合物ライブラリーのスクリーニングを継続するとともに、さらにヒット化合物について将来のリード化合物としての創薬につなげていくために新たな類縁化合物を合成し同様の解析を行う。これは、上記のライブラリーには含まれない全く新規の化合物を含んでおりこれまでのヒット化合物よりもさらに効果の高い化合物を探索する。化合物合成に関しては共同研究体制が整っており、これまでの化合物の大量合成および新規化合物の合成が可能である。 また臨床応用へ繋げて行くため、他のがんタンパク質変異細胞やヒト由来細胞で同様の効果を調べる。当研究室では、上記のRas変異細胞の他に正常上皮細胞と相互作用を示すことが知られているSrc変異細胞、p53ドミナントネガティブ細胞、ヒト乳腺上皮由来ErbB2変異細胞など様々な変異細胞を既に樹立しておりヒット化合物添加に対する影響を調べることが可能である。 さらに当研究室では、腸管の管腔形成過程でごくわずかの上皮細胞にのみ変異細胞を時間的空間的に生じさせることが可能な細胞競合モデルマウスを既に作製している。このマウスモデルにこれまで見出したヒット化合物を添加することにより正常細胞による変異細胞の除去が促進されるかどうか調べる。これらに加え、発がんモデルマウスを用いた解析を検討している。これは薬物の添加により発がんを誘導させることが可能な状態でヒット化合物を添加することで発がんが抑えられるかどうかを確認する。
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