研究実績の概要 |
ヒトにおいて、がんの大部分は腎臓、乳腺、肺などの上皮細胞において生じ、がん遺伝子またはがん抑制遺伝子の変異が蓄積するで進行する。がん発生のごく初期において、正常上皮細胞から生じたがん変異細胞は正常上皮細胞に囲まれた状態で存在し成長する。これまでの私たちおよび他グループの研究で、これら正常上皮細胞と変異細胞の間で「細胞競合」が生じ、変異細胞は周囲の正常上皮細胞によって細胞層からの逸脱や細胞死などによって排除されることを見出している。本研究ではこれら細胞間で生じる相互作用に注目し、正常上皮細胞が変異細胞を排除する機能を促進する低分子化合物の探索と機能解析を行った。 本研究では正常上皮細胞としてイヌ腎尿細管上皮細胞、変異細胞としてテトラサイクリン依存的にGFP-Ras変異を発現する細胞を用いた。正常上皮細胞と変異細胞を10:1の割合で混合後、一層の細胞層を形成した後にテトラサイクリンを加えることでがん発生のごく初期を模倣した。このテトラサイクリン添加と同時に低分子化合物を添加し、一定時間後に細胞イメージングシステムによりGFP蛍光強度を測定することで細胞競合を促進する化合物のスクリーニングを実施した。添加する低分子化合物は交付申請前に実施した約2,600化合物からなる既知薬効化合物と、約21万化合物から構造多様性などから厳選された9,600化合物からなるコアライブラリーを用いた。 ハイスループットスクリーニングの結果、細胞競合を促進するヒット化合物を2種見出した。さらに約21万化合物から構造的に類似な化合物を選択し、より細胞競合の促進効果があり毒性の少ない化合物を探索した。その結果、ヒット化合物の1つであるVC1よりも正常上皮細胞に対して毒性が少なく、変異細胞に対しては細胞死を誘導する化合物VC1-8を新たに見出した。この化合物はヒト由来の上皮細胞でも促進効果があり、将来の抗がん剤となり得る可能性を見出した。
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