当該年度の進捗は以下の4点に要約された。 ①再発癌のin vitroモデルと考えられる薬剤寛容性コロニー (Drug-tolerant colonies: DTCs) 出現に対する阻害化合物のスクリーニングを行った。クロマチン形成、転写、タンパク合成を標的とする阻害化合物の中でRNA polymerase II (RNAPII) 阻害剤が最もDTC形成を阻害した (4時間暴露で95%阻害)。 ②DTCsにおいて高発現した遺伝子群からRNAPIIに関与するものを探索し、RNAPIIに直接結合するタンパクをコードするTAF15遺伝子を同定した。DTCsはTAF15タンパクを通常のコロニーよりも3倍多く蓄積していた。癌細胞のTAF15 mRNAレベルはRNAPII阻害時間依存的に低下した。 ③TAF15遺伝子のDTC形成への関与を明らかにするために、TAF15遺伝子をノックダウンした癌細胞のDTC形成数を解析した。TAF15 siRNAを取り込んだ癌細胞のDTC形成数は、コントロールsiRNAを取り込んだ癌細胞の10%であった。 ④マウス癌性腹膜炎モデルを用いてRNAPII阻害剤の治療効果を検証した。シスプラチン単剤投与では無治療とほぼ同数の結節を腹腔内に生じたが、シスプラチンとRNAPIIを併用した場合では74%抑制された。また生存期間の延長 (7日間) が統計学的有意差をもって確認された。 以上から、RNAPII阻害はTAF15を含む基本転写装置の枯渇を引き起こし、基本転写装置に依存する薬剤寛容性を抑制する事で再発癌の予防につながる可能性があると考えられる。
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