本研究では、がん細胞と血小板の相互作用を標的とした新たな作用機序を有する抗腫瘍剤を開発することを目的に行った。最終年度である平成26年度は、血小板依存的ながん増殖亢進機構を仲介する分子として前年度に同定されたPDGFに着目して検討を行った。 まず、骨肉腫細胞株MG63およびHOSを血小板と共培養した際に骨肉腫細胞内で活性化されるシグナル伝達分子をリン酸化アレイで網羅的に解析した結果、PDGFRalpha、PDGFRbetaおよびAktの活性化が観察された。2種類のPDGFRを活性化可能なPDGFは、PDGF-BBのみである。そこで、血小板凝集に伴い血小板から放出される増殖因子をELISAで検出したところ、確かにPDGF-BBが含まれることを確認した。次に、PDGFR阻害剤Sunitinibの存在下で骨肉腫細胞を血小板と共培養したところ、PDGFRおよびAktのリン酸化が阻害された。このことから、血小板凝集に伴い血小板から放出されるPDGF-BBは、骨肉腫細胞のPDGFR-Akt経路を活性化することが示された。 さらに、血小板凝集に伴い血小板から放出されるPDGF-BBが骨肉腫細胞株の増殖に与える影響を、既存のがん分子標的治療薬や低分子阻害剤を用いて評価した。その結果、EGFR阻害剤Erlotinib添加は骨肉腫細胞の増殖に影響を与えなかったが、PDGFR阻害剤SunitinibおよびPI3K阻害剤LY294002処理は血小板依存的な骨肉腫細胞の増殖亢進を有意に抑制した。 以上の結果より、血小板依存的な骨肉腫細胞の増殖亢進の鍵となるシグナル経路は、PDGFR-Akt経路であり、既存のがん分子標的治療薬であるSunitinibが血小板依存的な骨肉腫細胞の増殖亢進の阻害に有用であることが示された。
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