研究課題
若手研究(B)
一部のシアノバクテリアは、緑色光と赤色光に応答して光合成アンテナタンパク質量(フィコエリスリンとフィコシアニン)の組成を調節する能力を持つ。この現象は補色順化(Complememary chromatic acclimation)と呼ばれ、これまでに、フィコエリスリン量だけが調節されるII型補色順化と、フィコエリスリンとフィコシアニンの両方が調節されるIII型補色順化に分けられると考えられてきた。本研究は、この現象の分子基盤や進化の過程をゲノム情報に基づいて説明することを目的とした。今年度は、細胞外多糖を多く含むシアノバクテリアからゲノムDNAを抽出する手法を確立した。また、ペアエンドライブラリとメイトペアライブラリの独自な調製法を確立し、次世代シークエンサーMiSeqを用いた低コストな完全ゲノム配列決定のパイプラインを構築した。続いて、野外の補色順化能を持つシアノバクテリアを収集し、それらの吸収スペクトルを測定した。フィコシアニンとフィコエリスリンの量比が大きく異なる近縁の2種のSynechocystis属のゲノム解析を実施し、それらの持つフィコビリソーム遺伝子セットを比較したところ、フィコシアニンとフィコエリスリンのリンカー遺伝子数が細胞色の決定に重要であることが示唆された。また、それ以外のシアノバクテリアについてもゲノム解析を実施し、リンカー遺伝子セットのバリエーションの存在が示された。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム解析のパイプラインの構築に、当初の予定よりも時間が掛かった。しかし、細かな条件検討によって各種パラメータを最適化する事で、ほぼ全ての非モデルシアノバクテリアにおいてゲノム情報に基づく解析が可能となり、これは今後の研究の進行に大きく役立つであろう。また、次世代シークエンサーを用いたde novo解析、リシークエンス解析、RNAseq解析の手法についても習得する事ができたのは当初の想定よりも早い進展であった。一方、分光測定による細胞色の分類法にはさらなる精度の向上が必要であることが示唆されている。全体として研究は順調に進展している。
次年度は、より多くのシアノバクテリアのゲノム解析を実施し、遺伝子セットのバリエーションの概要を把握し、それらの代表種を選定する予定である。それらの吸収スペクトル・低温蛍光スペクトル・質量分析によるタンパク質量の変動解析などを行う予定である。また、遺伝子発現量の違いを次世代シークエンサーを用いたRNAseq解析によって解析していく予定である。
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