申請者は、生体内でのクロマチン構造を保存したまま解析対象とするゲノム領域を単離する方法として、挿入的クロマチン免疫沈降法(insertional chromatin immunoprecipitation: iChIP)を考案した。本申請課題では、iChIP法により、細胞内に内在的に存在する1コピーの標的ゲノム領域を単離し、そこに結合する蛋白質・RNAを網羅的に高感度に同定する技術を確立する。具体的には、iChIP法を利用することで、Bリンパ球分化を担う主要分化制御因子であるPax5の遺伝子プロモーター領域に結合する蛋白質・RNAを網羅的に同定する技術を確立する。本申請課題により、転写因子やクロマチン関連因子といった蛋白質やノンコーディングRNAを網羅的に同定できる技術を確立することが出来れば、エピジェネティックな制御機構を含む転写制御機構を包括的に理解でき、従来の方法論では得られなかった生命現象の発見につながると考える。 昨年度は、内在性Pax5遺伝子プロモーター領域に結合している蛋白質を網羅的に同定するため、iChIP法とSILAC法(安定同位元素を利用した定量的質量分析技術)とを組み合わせた方法論(iChIP-SILAC)を確立し、Pax5遺伝子プロモーター領域に結合している蛋白質を網羅的に同定した。本年度は、同定した蛋白質について分子生物学的解析を行った。同定蛋白質の一つであるThy28についてノックダウンを行ったところ、Pax5遺伝子の発現減少が見られた。また、Thy28の新規結合蛋白質としてMYH9を同定し、MYH9のノックダウンでもPax5遺伝子の発現減少が見られた。Thy28のノックダウンで、MYH9のPax5遺伝子上への局在が減少することから、Thy28はPax5遺伝子上へのMYH9のリクルートを介して、Pax5遺伝子発現を制御していることが判明した。
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