研究課題/領域番号 |
25830137
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
柏木 明子 鳥取大学, 医学部, 助教 (90335521)
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研究期間 (年度) |
2014-02-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人工染色体ベクター |
研究実績の概要 |
人工染色体ベクターは、メガベース単位の長大遺伝子のデリバリーが可能であることから再生医療研究、抗体医薬開発への応用など様々な分野での利用が期待されている。しかし、染色体である本ベクターを活用する際の一つの課題は、目的細胞への導入効率の低さである。本研究では、その改善を目的とし、本ベクターを単独で保持する微小核だけを濃縮し、できるかぎり純化する新規方法の確立を目指す。 本年度は、予備実験として、本ベクターを保持するマウスA9細胞に微小核を誘導し、微小核内に含まれる染色体本数と微小核の直径サイズの関係を、セントロメアプローブを用いたFISH解析により検討した。その結果、1つの微小核内に含まれる染色体本数とその微小核の直径サイズは正の相関を持つことが明らかとなった。さらに、本ベクターのみを1本保持する微小核は少なくとも直径2um以下であること、そして、その形成効率は考えられてきた以上に低いことが示唆された。これらの結果を踏まえ、本研究では人工染色体ベクターのホスト細胞そのものを、染色体本数が全哺乳類中最少と知られるインドキョン線維芽細胞株FM7に変更して問題解決に取り組むことにした。FM7はわずか6本のみの巨大染色体を持つため、本ベクターとのサイズ差を最大にできる。よってFM7に微小核を形成することで、本ベクターのみを含む微小核の分離に有効と考えた。本研究ではすでに作成済みであった人工染色体ベクター保持FM7を用いて、効率的に微小核形成し、かつ超遠心分離法により効率的に微小核の脱核ができる条件を検討した。その結果、細胞培地に微小管脱重合阻害薬パクリタキセル0.03ug/ml、48時間処理することで微小核が効率的に形成され、また脱核により効率的に回収できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画である、人工染色体ベクターを保持するFM7細胞(2n=6+人工染色体1本)の微小核形成至適条件の検討はおおむね達成した。この細胞の中では、理論的には最大で7つの微小核が形成される。しかしながら、決定した至適条件でコルセミド、あるいはパクリタキセル処理した細胞について、ヘキスト染色により微小核の数を解析した結果、全ての細胞が微小核を形成するわけではなく、期待された7個の微小核を形成する細胞の割合が数割程度であることが明らかとなった。また、A9細胞と比較して、FM7細胞はパクリタキセルやコルセミドといった薬剤に対して感受性が高いために死細胞が増える傾向にあることも明らかとなった。次年度以降、フィルトレーションによって、微小核のサイズ依存的な分離を試み、本ベクターのみを含むような微小核の精製・濃縮方法を確立するためには、細胞ダメージを抑えつつ、より最大数に近い数の微小核を誘導できるように、更なる微小核形成条件検討が必要であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の予備実験結果をもとに、次年度ではフィルトレーションによって、人工染色体ベクターのみを1本含む微小核を濾過させるために、様々なポアサイズのフィルターの検討など、微小核濾過条件を検討する。フィルトレーション方法を決定した後、その方法を用いて濃縮させたより小さいと考えられる微小核細胞を、濃縮前の微小核細胞と比較して、生化学的な検討、形態学的な検討を踏まえ、人工染色体ベクターがどの程度濃縮されているかどうかを検証する。さらに、濃縮された微小核細胞を用いて、実際に受容細胞との融合をもって、染色体移入を行い、人工染色体ベクターの移入効率改善の可否を検討していく。 また、サイズによるフィルトレーション法によって、狙い通りの微小核の精製が著しく改善しない場合は、フィルトレーションの代案も検討する。一つの候補として、FACS(セルソーター)を用いる。本ベクターにはEGFP遺伝子が搭載されているため、精製された微小核細胞の大小によって、EGFPの蛍光強度が異なることが期待できるため、FACSによって本ベクターのみを含む微小核細胞を効率的に分取する方法を検討したい。 いずれの方法においても、ある程度の濃縮は期待できるが、コルセミド等の薬剤に耐性を示すマウスA9細胞と比較すると、薬剤感受性の高いFM7細胞から精製される微小核細胞数は理論的に少なくなるため、大量調整が困難である可能性も考えられる。本研究の最終ゴールとして、in vivoでの直接的な染色体デリバリーを検討しているが、その際に使用する麻疹ウイルス感染関連タンパク質を用いた染色体移入法では調製する微小核細胞の数は大幅に減らすことができる。よって、次年度は麻疹ウイルスの系がFM7細胞にも適用できるかどうかも合わせて検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は本研究課題の実験開始に必要な消耗品を主に購入したが、実験が予定より早く進んだため、より多くの消耗品が必要になり、一度前倒し支払い請求を行った。前倒し請求を行った予算額全ては今年度内に使用しきれなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画は、以下の通りである。1)FM7細胞を利用した人工染色体ベクターのみを含む微小核の濃縮法(可能であれば純化法)の開発、2)濃縮した人工染色体ベクターを含む微小核細胞を用いた人工染色体ベクターの受容細胞への移入効率改善の可否の検討を翌年度行う。1)2)共に、細胞培養関連試薬、染色体解析試薬、細胞培養関連プラスチック製品、濃縮行程に使用するフィルター類、FM7細胞から微小核を取り出すための特殊試薬サイトカラシンB、またG418、各種抗生物質などの高価な試薬が必要であるため、購入する予定である。設備備品については全て揃っているため、特に購入の予定はない。また以上の研究結果をまとめ、関連の学会で発表も行うため、旅費にも使用する予定である。
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