人工染色体ベクター(HAC)は、導入遺伝子サイズに制限がなくメガベース単位の遺伝子デリバリーが可能であることから、再生医療研究、抗体医薬開発など様々な分野で利用されている。しかし、目的細胞へのHAC移入効率の低さが大きな課題である。HACの目的細胞への移入は、微小核細胞融合法を基盤にしている。したがって、HAC移入効率を改善するためには、HACを保持する微小核細胞の濃縮が有効な方法と考えられる。 本年度は、HACのみを保持する微小核細胞(HAC-MC)を濃縮する新規方法の確立を試みた。宿主細胞として哺乳類中染色体数が最少のインドキョンFM7細胞(2n=6)を活用した。この細胞にHACを移入し、HAC1本を独立に保持するFM7細胞(2n=6+1)(FM7-HAC)を樹立した。HACのゲノムサイズは、5MbとFM7細胞の染色体と比較して極小のため、ろ過法によりFM7-HAC由来の全微小核細胞液からHAC-MCの濃縮を検討した。その結果、フィルターポアサイズ3 umを用いたろ液においてFISH解析を行なった結果から、同一微小核中にFM7染色体とHACが混在するような微小核細胞はほとんど除去され、FM7染色体のみを含む微小核かHACのみを含む微小核が分離されることが明らかとなった。 次に、このろ液についてFACS法にてHAC-MCのさらなる濃縮を検討した。HACのサイズは、FM7染色体と比較して極小であるため、ヘキスト染色強度が著しく低いことが推測される。ヘキスト強陽性集団を取り除き弱陽性集団においてFISH解析を行った結果、不要なFM7染色体のみを含むHAC-MCが除去され、HAC-MCが約6割まで濃縮されることが確認された。現在、この方法により濃縮したHAC-MCを用いて、HACの目的細胞への移入効率の改善効果を検討している。
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