本課題の胆である代謝ネットワークの包括的理解のための実験的・解析的プラットフォームの構築に向けて、本年度はマウス臓器におけるプロテオミクスの検討と、代謝酵素定量データを用いた数理科学的解析を行った。 1) マウス臓器における代謝酵素量計測 まずマウス各臓器からのプロテオームサンプル調製・質量分析プロトコールを最適化した。C57BL/6マウスより採取した各臓器(肝臓・筋肉等)を粉砕し、2% SDS緩衝液中にて超音波処理することによりタンパク質抽出液を調製することとした。臓器プロテオームは発現の偏りが大きいため、SDS-PAGE後高発現タンパク質を除去して、さらに12分画することで網羅性と定量性を向上させた。タンパク質定量の網羅性をSpike-in SILAC法で確認したところ、臓器あたり約3000タンパク質が同定され、代謝酵素の多くが定量可能であった。 2) 代謝ネットワークの数理科学的解析 ヒト正常繊維芽細胞TIG-3において情報基盤定量プロテオミクス法で計測した全代謝酵素の定量値を用いて、数理科学的解析(絶対量ベース代謝システム解析)を行った。まずは既知の代謝ネットワーク構造の情報と代謝酵素の検出の有無より、対象細胞における代謝ネットワーク構造を決定した。このネットワーク構造と、全代謝酵素定量値、一部の流束実測値を用いることで、各経路の流束の推定に併せて、各代謝酵素の量的変動が各代謝物濃度や流束に与える影響の推定(感度解析)や、その際の代謝物濃度変化のシミュレーションを行い、各代謝経路の障害が代謝ネットワークの各部位に与える影響を定量的に解析した。 本課題において構築された、マウス臓器における代謝酵素の網羅的定量と、取得データを用いた代謝ネットワークの特性解析のためのプラットフォームを用いることで、代謝ネットワークの破綻としての疾病の理解が促進することが期待される。
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