平成25年度の養殖場調査で明らかにされた養殖個体の成育環境をもとに、天然加入個体と放流個体とでは耳石の酸素・炭素安定同位体比が大きく異なると推測された。このため、平成26年度までに天然加入個体106個体、放流個体314個体、合計420個体を入手し、耳石の酸素・炭素安定同位体比を計測し、その相違を比較した。 耳石の処理においては、始めにニホンウナギから取り出した耳石試料を耳石核が表面に露出する直前まで研磨した。その後鏡面になるまで琢磨し、核を露出させ耳石薄層切片を作成した。耳石分析のための粉末試料の削り出しは、円錐のマイクロドリルによって顕微鏡下で行った。耳石の掘削範囲は、河川生活期あるいは養殖場生活期部分(核から長径650μmの範囲内)とした。得られた粉末をアルミ箔上に回収した後に、分析用ガラスバイアルに導入した。同位体比分析は大気海洋研究所に設置された、自動前処理装置(GasBench II、Thermo Fisher Scientific)に接続された安定同位体質量分析装置(Delta V plus、Thermo Fisher Scientific)により行った。 養殖個体と天然加入個体の間では、耳石の同位体組成に差違があり、その差異は環境水の温度など、成育環境の違いに由来すると考えられた。非線形判別モデルを利用し、天然加入個体と放流個体の耳石酸素・炭素安定同位体比に対して判別分析を行ったところ、得られた非線形判別モデルは教師データの判別率が98.6%と信頼性が高かった。以上の結果より、ニホンウナギの天然加入個体と放流個体を、耳石酸素・炭素安定同位体比を用いて判別することが可能になったと言える。
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