最終年度は、統計モデルの改良と成果公表(論文化、学会発表およびマニュアル作成)に務めた。解析の結果、水田における環境保全型農業は複数の分類群の種数・個体数を高める効果を持っていた。具体的には、特に有機農業の保全効果が高く、慣行農業と比較して希少植物の種数、アシナガグモ属・アカネ属・ダルマ(+トノサマ)ガエル・ドジョウの個体数が有意に多かった。水鳥類の個体数も、マージナルだが多い傾向にあった。特別栽培は、有機農業ほど多くの分類群には効果はなかったが、希少植物の種数、アシナガグモ属・アカネ属の個体数を高める効果を持っていた。また環境保全型農業が生きものを増やす仕組みは、分類群によって異なることも明らかとなった。植物には除草剤、クモには除草剤と箱剤、アカネ属には箱剤と輪作、ダルマガエルには畦の草管理、ドジョウには輪作、が大きく影響していた。これらの結果は、保全したい種に合わせて実施すべき管理方法が異なることを示しており、少なくコストで高い保全効果を得られる可能性があることを示唆している。 これらの結果は、生態学会の企画集会で発表するとともに、原著論文としても国際誌に投稿直前の段階である。また、より良い環境保全型農業のあり方についての提言を行い、これは農業環境変動研究センターのマニュアルとして公開予定であるとともに、生態学会誌の特集号にも掲載される予定である。今後、さらに書籍執筆等も通じて、より広く社会に成果を発信していく予定である。
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