本年度の実験計画に基づき、まず、utNgn1が標的遺伝子であるNeurog1のプロモーター領域のヒストン修飾に影響を与えるかを、クロマチン免疫沈降法(ChIP)により検討した。大脳新皮質由来の神経系前駆細胞を用いてutNgn1をノックダウンし、転写活性化状態に関連するヒストン修飾および転写抑制に関連するヒストン修飾抗体を用いてChIPを行った。その結果、Neurog1プロモーターにおいては、これらのヒストン修飾レベルに大きな変化は見られなかった。そこで次に、utNgn1がRNA ポリメラーゼIIのリクルートあるいは転写開始や転写伸長などに関与している可能性を RNAポリメラーゼII抗体を用いてChIPにより検討した。その結果興味深いことに、 utNgn1がNeurog1の転写の開始や伸長に関与している可能性を示唆する結果が得られた。さらにutNgn1のエンハンサーとしての機能を検討するために、エンハンサーとプロモーター領域の近接具合をChromosome Conformation Capture(3C)法により評価した。その結果、神経系前駆細胞がニューロン分化する過程で、Neurog1遺伝子座のエンハンサー−プロモーター間が近接する可能性が示唆された。さらにこの近接とutNgn1の関係を検討した。これらの結果から、utNgn1がどのようにNeurog1の転写促進に関与しているのかについて、非常に示唆的な結果が得られた。 本結果に基づきさらに詳細に解析を進めることで、lncRNAの新しい作用機序が明らかになることが期待される。
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