研究課題/領域番号 |
25840006
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小林 勇気 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (80644616)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | オルガネラ / 細胞周期 / 複製 |
研究概要 |
葉緑体とミトコンドリアは進化の過程で、細胞内共生によって誕生し、独自のゲノムと、複製、転写、翻訳機構を持っている。申請者らの単細胞紅藻シゾンを用いた解析から、核のDNA複製(NDR)はオルガネラDNA複製(ODR)によって制御されており、葉緑体で合成されるテトラピロール分子の一種が、シグナルとして働いていることを明らかにした。しかし、ODRの開始を制御する機構については明らかではない。そこで本研究では、ODRの開始機構を明らかにする事を目的とした。ODRの開始はMAPK阻害剤、CDK阻害剤及びプロテアソーム阻害剤によって阻害されることからMAPKカスケード、CDKとユビキチンリガーゼが関係することがすでにわかっていたので、これらの特定を目指した。ODR開始時にMAPK3特異的に活性化することから、ODR開始にMAPK3が働いていることを特定した。またCDKBがODR開始時期に特異的に活性化されることを明らかにした。ODR開始にはHemeが必要であるため、Hemeに特異的に結合するタンパク質を探索した結果、Hemeに結合するF-boxタンパク質を同定した。CDKの活性は結合するサイクリンによって制御されている。相互作用解析の結果からCDKBにはサイクリンAが結合している可能性が示唆された。MAPK3、サイクリンA、F-boxタンパク質の3種で相互作用を検討したが、明確な相互作用は確認できなかった。このことから、これら3種を結ぶ新たな因子が存在している可能性が示唆された。植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)がODR開始に関わっている可能性が示唆された。そこで、ODR開始とABAの関係についても解析を行い、ABAによりHeme合成が制御されることが明らかになった。このことからODR開始における、Hemeの上流制御領域にABAが関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではODR開始の分子機構を、断片的に得られている情報を元に仮説を立て検証する手法をとっている。仮説を証明する上で必要な解析は、1. ODR開始に関わるMAPキナーゼ経路の特定、2. 未同定なサイクリンCDKの同定、3. ODR開始に関わるHeme機能の同定、4. ODR開始機構の活性化機序の解明の4つである。これらの内1-3を本年度は明らかにした。当初は1-3のそれぞれの機構が直接的な相互作用をしていると考えていたが、本年度の研究の結果、直接的な相互作用は認められなかったため、新たな因子が介在している可能性が考えられた。新たな因子の候補として植物ホルモン・アブシジン酸を検証した。申請者は過去の研究の過程で、アブシジン酸の添加によってODRが停止することを明らかにしている。高等植物は植物ホルモンが細胞周期を制御している例は数多く存在している。このことからODR開始にアブシジン酸が関わっている可能性が考えられた。解析を進めた結果、アブシジン酸によって細胞内Heme量が制御されていることが明らかになった。このことからODR開始がアブシジン酸の制御を受けている可能性が示唆された。今後はMAPキナーゼ、CDK、Hemeに加えアブシジン酸の4因子に関わる相互作用を検証しODR開始の分子機構を明らかにしていく。上記の理由から目的の達成度は6割以上と考えられ、研究目的に対する本年度の進捗状況は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果によりODR開始に関わるMAPキナーゼ経路、CDK、ユビキチンリガーゼ・F-boxタンパク質が明らかになった。さらに、細胞内Heme量がアブシジン酸によって制御されていることも明らかになった。本年度特定したF-boxタンパク質はHemeと結合性を持っていた。近年、リガンドが結合することでユビキチンリガーゼのターゲット認識が変化する知見が多く報告されている。このことから、Hemeと結合することでユビキチン化ターゲットとの結合性が変化すると考えられる。本年度特定したF-boxタンパク質のターゲットがODR開始のキーファクターであると考えられる、次年度はユビキチンリガーゼのターゲットを明らかにし、MAPキナーゼ経路、CDK、との分子的な関わりを明らかにすることで、本研究の目的を達成する予定である。当初の研究計画では2ハイブリット解析やリコンビナントを用いた相互作用解析で各因子の関わりを明らかにする予定であった。しかし、全く未知の因子が新たに関わっている可能性が示唆されたため、より簡便かつ確度の高い方法として生化学的にタンパク質複合体を精製し、質量分析を用いて同定する方法に計画を変更することとした。申請者の所属機関にて共同機器として質量分析装置が導入されたため、安価に解析を進めることが可能になった。質量分析を用いることによってin vivoでのタンパク質複合体を網羅的に同定することが可能であり、2ハイブリット解析の様に擬陽性を疑うことが無い利点がある。
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