研究課題/領域番号 |
25840007
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
樽本 雄介 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (70551381)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ストレス応答 / シグナル伝達 / 遺伝子発現制御 / クロマチン / 分子生物学 |
研究概要 |
本研究では、変動するストレス環境あるいは低容量のストレス環境のもとにおける細胞のストレス応答機構を理解するために、それらの応答に重要である因子として申請者が同定したCpc2およびSlm9の細胞内で機能する分子機構を明らかにすることを目的としている。H25年度中に得られた研究成果は大きく分けて以下の3点である。まず、翻訳開始因子のリン酸化を介したストレス応答時の翻訳制御にCpc2が機能する分子機構を明らかにして報告した。2つ目に、ストレス応答時のSlm9のクロマチン局在にCpc2が重要であることを見いだした。また、ストレス応答性MAPキナーゼ経路も同様にSlm9のクロマチン局在に必要であった。これらのことは、Cpc2とSlm9が共にストレスに応答してヌクレオソームの再配置などのクロマチン上の変化を促進することにより、ストレス応答性遺伝子の発現を制御している可能性を支持している。3つ目に、cpc2遺伝子の欠損株での遺伝子の発現パターンをマイクロアレイで網羅的に解析したところ、多くのストレス応答性遺伝子の発現量が減少していることが確認され、それらの発現パターンはストレス応答性MAPキナーゼによって活性化される転写因子をコードするatf1遺伝子の変異株で観察されるパターンと類似していることが明らかになった。以上の結果から、Cpc2およびSlm9のストレス応答における役割が示され、環境変化に適応するために細胞が遺伝子の発現パターンを厳密に制御する分子機構の一端が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Cpc2およびSlm9がストレス応答時のクロマチン構造の制御に関わる分子機構の解明を目的としている。大部分は細胞質に局在するCpc2が核にも存在しうることは、細胞抽出液の分画実験より示唆されているが、H25年度に計画していたCpc2がクロマチンに局在するかどうか明らかにすることについては現時点ではまだ結論がでていない。しかし、ストレス処理時のSlm9のストレス応答性遺伝子の領域のクロマチンへの結合や、ヌクレオソームのリモデリングにCpc2が重要であることを見いだしており、Cpc2がストレス応答時のクロマチン構造の制御に重要であることが裏付けられた。また、ストレス応答性MAPキナーゼとCpc2、Slm9との関連が明らかになってきている。遺伝子の転写を行うRNAポリメラーゼのクロマチンへの結合やヒストン修飾状況がcpc2の欠損によって影響を受けることを示唆する予備データが得られている。 一方で、当初H26年度に計画していた内容のうち、マイクロアレイ解析によるcpc2欠損株での遺伝子発現パターンの解析は前倒しで進めている。得られた遺伝子発現パターンと、ストレス応答性MAPキナーゼやそれに活性化される転写因子をコードする遺伝子変異株での遺伝子発現パターンとの比較から、同経路でストレス応答に機能することが示されている。現在は、slm9欠損株との比較を行っているところである。 以上から、計画していた研究内容を進める順序は一部前後しているが、おおむね計画通り進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、Cpc2がストレス応答性MAPキナーゼの制御を介してストレス応答時の遺伝子の発現を制御していることを明らかにした。しかし、Cpc2がクロマチン上で機能しているのか、それともストレスシグナルの細胞内伝達過程を制御することで間接的にクロマチン構造に影響を与えているのかはまだ不明である。まずは、Cpc2がクロマチンに局在することを調べる。標準的なクロマチン免疫沈降実験では、Cpc2のクロマチン結合は検出できなかったことから、リボソームに結合しないCpc2変異体などを用いて検討する。また、Cpc2とSlm9、あるいは他のクロマチンリモデリング因子との物理的相互作用を調べることで、Cpc2の核内での機能を検討する。 Slm9やCpc2によって制御されるクロマチン構造の変化(ヌクレオソームの配置やヒストン修飾など)を明らかにし、それらと細胞が獲得するストレス抵抗性との相関を調べる。低容量のストレスに晒された細胞が一過的に獲得する抵抗性は一定時間維持されることをこれまでの研究で明らかにしており、クロマチン構造の変化とストレス抵抗性の持続時間との関係を調べることで、獲得されたストレス抵抗性がどのように細胞内で記憶されているのかを検討する。
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