本研究では、変動するストレス環境あるいは低容量のストレス環境に対する細胞の応答機構を理解するために、そのような環境への応答に重要な因子として申請者が同定したCpc2およびSlm9が細胞内で機能する分子機構を解明することを目的としている。H26年度に得られた研究成果は主にCpc2によるヌクレオソームの配置の制御に関するものである。まず、ストレス応答性遺伝子のプロモーター近傍で起こるヌクレオソームの再配置にCpc2が重要であることを明らかにした。cpc2欠損株では細胞内のAtf1タンパク質量が減少すること、Atf1タンパク質の減少によってヌクレオソーム再配置が異常になることから、Cpc2はAtf1タンパク質量の調節を介して、ヌクレオソームの制御に関与する可能性が考えられた。一方、リボソームに結合しないCpc2変異体ではヌクレオソームの再配置は正常に起こったことから、Cpc2が細胞内のリボソーム上とは異なる場所でヌクレオソームの再配置を制御することが示された。また、同時にこの結果から、Cpc2による翻訳制御はヌクレオソームの再配置の制御には必要でないことが示唆される。H25年度に得られた成果と統合すると、Cpc2はヌクレオソームの制御を通じてストレス応答性遺伝子の発現調節に重要な役割をもつことが明らかとなった。また、この制御にはストレス応答性MAPキナーゼ経路が関与することが考えられた。本研究により、Cpc2やSlm9による新たな遺伝子発現制御機構の一端を明らかにすることができた。さらに発展してくことにより、環境変化に対して細胞が遺伝子の発現パターンを厳密に制御する分子機構の解明に近づくと期待される。
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